ろ

酒とバラの日々のろのレビュー・感想・評価

酒とバラの日々(1962年製作の映画)
5.0

「酒に断酒にとらわれて・・・僕たちの愛はどこへ行った?」

8年通ったTSUTAYAが今月閉店した。
閉店間際に行われた中古DVDの100円セール。
まるで花火大会の帰りのホームのようににぎわう店内で「酒とバラの日々」を見つけた。

経験したことのない世界を疑似体験できる、映画は唯一無二のすばらしいツールだと思う。
「ドントウォーリー」「ドクタースリープ」「ロケットマン」そして「酒とバラの日々」。どの作品にも依存症の治療や更生会が登場する。主人公は仲間たちに見守られながら自身の体験を語る。私はそれを毎回涙に震えながら見届ける。なにかをやめることも、そしてなにかを渇望することも、どちらも身を裂かれるほどの苦しみを伴うものだと知っているから。

嫌な仕事に耐えるため、浴びるように酒を飲むジョー。
夫婦の時間を一緒に楽しみたいという夫の願いを叶えるため、酒瓶に手を伸ばしたクリステン。
誰も悪くない。なのに酒を飲むごと、二人の生活はどんどん苦しくなっていく。

鉢植えに隠したはずの酒瓶が見つからず、温室中の鉢植えをひっくり返す。
酒が切れるといてもたってもいられず酒屋に駆け込み盗んでまで手に入れる。
手足を縛られても身をよじるほど酒を欲し、酒のこと以外は何も考えられない。
もはや意思が強い弱いの話ではない。
完璧に絶つのは難しい、しかも自分一人では続けられない。毎秒毎分がキリストの十字架のように重くのしかかり、裸足でいばらを踏むような痛みに耐えて歩いていかなくてはならないのだから。

飲んでいるときの解放感、そして切れたときの絶望感。
感情のアップダウンに振り回され、愛で結ばれていたはずの夫婦の絆はいつのまにか酒瓶に取って代わられた。

現実は汚くて、お酒なしではとても見てられないのよ、と妻は去っていく。
ジョーの暮らすアパートからは、BARのネオンが見える。
断酒して1年。あえて目の前に誘惑をぶら下げ、それでも自分の意志を貫こうとするジョー。
今日もまた、やるせない夜が更けていく。
ろ