【1998年キネマ旬報日本映画ベストテン 第10位】
『雪に願うこと』根岸吉太郎監督作品。白川道『海は涸いていた』を原作に、荒井晴彦が脚色した。ヴァイオリニスト川井郁子の映画デビュー作でもある。
叙情的な演出は根岸監督らしく、ヤクザと警察のクライムサスペンスとしてなかなか面白かった。のだが、後半にいくにつれてどんどん脚本が雑になっていくのが…
役所広司がヤクザ、渡辺謙が刑事という日本を代表する豪華な配役で、この二人はよかった。渡辺謙は役不足な気がしたけど。
10年前の殺人事件と現在が重なる構成はよく、サスペンスとして十分な面白さがある。一見繋がりがなく見える登場人物が意外なところで繋がるのがいい。
ただ、後半はいかにもご都合主義でいただけない。叙情的になりすぎて破綻している。刑事側の周囲が全く描かれないのが問題だと思う。大阪で殺人を起こしているのに、その場で捕まえようとせずに東京の海まで来るのを待っているってあり得なくない?渡辺謙と役所広司の因縁もそこまで見えないし、警察上層部がそれを許すはずないと思うけど。部下もただ従うだけだし。
あとやたらと棒読みの演者が多いのも気になる。川井郁子は仕方ないにしても、刑事の部下やヤクザの女友達、斎藤洋介まで下手に見えるっていうのは作り手側の問題かと。筒井真理子はちょい役だけど段違いに上手かった。
どんどんロマンティックな方向にいった結果、脚本が破綻した感じ。そこは残念ではあるが、前半のワクワク感はけっこう楽しかった。全体としてはまあ満足できるクライムドラマだったかな。そんなに悪くない。