三樹夫

マルサの女2の三樹夫のレビュー・感想・評価

マルサの女2(1988年製作の映画)
4.3
続編ものの定石に則り前作の裏社会見学の拡大路線で、地上げにカルト宗教とよりエグいテーマを扱い、前作以上に面白い顔したおじさんを投入している。丹波哲郎は相変わらず演説キャラで、益岡徹はもの凄い東大卒顔だし、小松方正はもの凄い金権政治家顔だし、岡本信人はもの凄い宗教信者顔だった。
映画の構造並びにメインの敵役のキャラ造形も前作とほぼ一緒だ。鬼沢は悪どく金儲けしながらも、娘すら平気で売り飛ばしてしまうような拝金主義にどっぷりハマりきることは出来ない。その証拠に毎晩悪夢にうなされている。そして子供が重要なキーになってくると前作のメインの敵である権藤と同じなのだが、子供の意味付けが異なる。権藤にとっての子供は、拝金主義どっぷりで利己的な彼の中にまだ残る人間性や利他心の象徴であった。しかし鬼沢にとっての子供は、まず金が自分の子供と台詞にして言っている。そして洞口依子は毎晩悪夢に押しつぶされそうになる苦しみからの逃避場所かつ、金に汚れている人間ばかりの中で少女はまだ汚れを知らない純粋無垢な存在という鬼沢の極めてロリコン的な考えを表している。子供が前作のようにまだ残っている人間性の象徴になっているのではなく、利己的な男が苦しみから逃れるための逃避という自分勝手なものでしかない。子供すらも結局鬼沢の利己的なものの象徴になっている。そのため前作にあった人間性がまだ残っているというかすかな希望すらなく、人間の欲望からくるいやーな面が延々続き、もの凄いド陰惨な終わり方を迎える。政治家、銀行、企業、ヤクザ全部つるんで地上げという、昭和はやっぱ狂ってるわ。

ハードなテーマや陰惨な雰囲気が漂う中それでも何とか娯楽作としてヒットに導かんという努力か分かりやすくしようという意図か、前作でも張り込みの仕方など所々漫画かみたいなシーンがあったが、今作ではより漫画かというのが盛られている。宮本信子が漫画みたいなDV被害メイクしていたり、悪の秘密基地みたいな宗教施設など、そんなわけないまるで漫画な演出に大衆性を獲得しようとする貪欲さを感じる。

『タンポポ』で食欲を性欲のメタファーとして描いていたのと同じように、この映画のカニをムシャムシャ貪るのは食欲旺盛=欲に溢れた連中という描き方がされている。
この映画では度々第四の壁を破って観る者に直接語り掛けてくるが、「日本人は全部村人だ、全部のぞき魔だ、全部下衆だ。他人の不幸がなにより好きなんだよ」 は監督の社会正義の発露としてのメッセージなのか。
地上げは国際都市開発の高層ビル用地確保のお国のためという、鬼沢が地上げ屋の代弁を観る者に投げつけてきて、さすがに一理あるなんて思ったりする人間はいないと思うが、地上げのお国のため演説はチンピラ集めて地上げの算段を練っているシーンの日本国旗の額縁が何度も傾くので予め否定されている。お国のためというのは嘘で、ただ単に私利私欲でやっているということだ。
バブル期の地上げは、バブル崩壊により地価が暴落して地上げもおさまって地上げ途中の更地が虫食い状態で残り、再開発も進まずコインパなどに姿を変えるということになっている。
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