半兵衛

祇園の暗殺者の半兵衛のレビュー・感想・評価

祇園の暗殺者(1962年製作の映画)
3.5
1862~63年頃の京都を舞台にした珍しい幕末もの。とはいえこの時分の京都は一見すると一致して倒幕や攘夷運動で盛り上がっているように見えてその内実は運動に参加している公家や土佐、薩摩、長州それぞれが主導権を握らんと駆け引きを繰り広げていた複雑な時代のため、さしもの脚本家笠原和夫もその時勢の流れを把握するのに精一杯で肝心のドラマはあまり盛り上がらない印象に。それでもこうした複雑な時代と人間が織り成すドラマは10年後の『仁義なき戦い』で結実しており、笠原の作風を決定づけた一作と言える。

笠原は後年エッセイなどで演出をけなし、当初監督を担当するはずだった加藤泰だったらなあみたいな発言をしているが、内出監督の演出は言うほど駄目ではないと思う。例えば首を斬られた死体が硬直した状態で運ばれたり、最後のチャンバラシーンも狭い京都の路地を上手く生かしたりとそれなりに頑張っている。そして暗殺や闘争を繰り広げ血に飢えたようなギスギスした独自の世界観を見事に表現している。

あと笠原がダメな演出の一例として挙げていた親が殺された現場を目撃し精神を壊した少女の描写だが、映画の演出も充分怖かったと思うよ。黒澤明や深作欣二といった名匠でもあれを超えるって難しいのでは?バリゾーニあたりならやれるかもしれないけど。

主人公の近衛十四郎がテロを平然と行うくせに自分一人だけ正義を貫こうといいカッコしている煮え切らないキャラになっているので共感しにくいが、その分薩摩から出てきた田舎侍から人斬りのテロリストとして出世していくスガカンの不気味なアウトローっぷりや冷酷な指導者ぶりがはまっている佐藤慶の熱演が映画にハマっていて印象に残る。

ちなみに映像作品ではこれと『人斬り』くらいしか取り上げていない珍しい「石部宿の暗殺事件」(京都から逃げようとしていた京都奉行所与力など現在の警察関係者にあたる人たちを尊皇派が殺害したかなりヤバいテロ事件、参加者は明治時代にも存在したと言われるが警察関係者を殺害したなんて政治や公職に関わっている人間が喋ることは出来ないため誰もその事に触れず事件の詳細は不明のまま)が出てくるので幕末ファンには必見かも。
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