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カジュアリティーズのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

カジュアリティーズ(1989年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

1974年、電車に乗っていたマックスは乗り込んできたアジア人女性の姿を見て、過去のベトナム戦争での体験を思い出す。マックスを含む偵察行軍にあたった5人の兵士は戦闘のストレスからベトナム人少女を誘拐した上で強姦に及ぶが、ただ一人新兵マックスだけが仲間に加わらなかった。やがて交戦の中で少女は殺される…。

ベトナム戦争当時、実際に起きた事件を映画化した問題作。
ブライアン・デ・パルマ監督が、自身初となる戦争映画に挑戦した意欲作であるが、公開当時、オリバー・ストーン監督のアカデミー作品賞「プラトーン」から続くベトナム戦争ものに乗っかった便乗映画と捉えられ、興業的には惨敗。

しかし、戦場において主人公が理性を問われ、善悪に葛藤する内容は、戦争の大義名分よりも、ひたすら悲惨な戦闘による死よりも、見る者の内面に問うものであり、今も心に響く。
また、言葉が通じないベトナム人女性への痛々しい迫害は、異人種を人間扱いをしていない差別をまざまざと見せつける。
戦争映画でありながら、モラルを問うサスペンスの秀作である。

物語は、ベトナムで過酷な毎日を送っている若き兵士たちが、過度のストレスを娼館で発散することが出来ず、暴走していくさまを描いたもので、戦闘そのものが主題ではない。

ダークサイドに堕ちていく仲間たちを尻目に、自分だけは人間らしくあろうとする新兵の孤独な闘いを、デ・パルマ監督らしくサスペンスフルに描く。

正義感の強いマックスは、名も知らぬ言葉も通じぬ少女をレイプすることを拒否し、仲間から嫌われる。
助けてあげたいが、マックスにはその力がない。
暴走する仲間に反抗したら、今度は自分の生命も危ない。
奴隷のごとく囚われた少女をマックスは逃がそうとするが失敗。
上官のミザーブはマックスに彼女を殺すよう命じるが、精一杯の勇気を奮い立たせてマックスはこれも拒否する。
「果たして自分だったらどうするのか?」と考えさせられ、狂った戦場でのマックスの葛藤に共感させられる。

レイプした上に「殺せ」という残酷な命令に、他のメンバーもさすがに罪悪感から少女に手を下せない。
少女を連れたまま、小隊は敵の潜む川の畔へ。
少女は熱が出て咳が止まらず、いつ敵に発見されるか分からない。
ミザーブは部下に殺害を命令するが、それを阻止しようとしてマックスが発砲したため、敵に見つかり、激しい銃撃戦に。
そのドサクサに紛れて逃げようとした少女をミザーブが射殺する。
それぞれの表情がアップとなり、少女が線路を歩く遠景と重なり、思惑が交差するこのクライマックスは、罪悪感と無力さに満ちている。

やがてヘリコプターが来て、ナパーム弾でジャングルを焼き払い、全ては有耶無耶になる。
事件後、小隊が基地へ戻ると、マックスは上官に小隊の犯罪行為を報告するが、誰も聞く耳を持たない。
戦場での不幸な事故として片づけられようとする。
やがて小隊の仲間に命を狙われるようになったマックスは従軍牧師の元へ。
事件の詳細を知った牧師がさらに上層部に報告し、ようやく捜査が行われ、事件は裁判沙汰に。
小隊のメンバーは有罪になる。
しかし、現在でもミザーブたちの姿がマックスの前に悪夢のように浮かぶ…。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でブレイクし、コメディの印象が強いマイケル・J・フォックスが主人公マックスをシリアスに好演。
だが、何と言っても狂気の上官ミザーブ役の若き日の名優ショーン・ペンの迫真の演技が素晴らしい。
戦争の狂気に嵌り、自ら進んで悪に堕ちていく姿には、哀れみすら感じさせる。

結果的には、少女を助けることが出来なかった主人公マックスの後悔と罪悪感のトラウマ物語。
それもまた多くのデ・パルマ監督作品の主人公の大きな特徴でもある。
マックスが電車で出会った女性が、少女と同じ女優というのも監督らしい意地悪さも、見る者の胸をとことん苦しめる。

驚くべきは、この話が実話だということ。
そして、この話から約50年が経つというのに、人間は進歩していない…。

2022年現在、ウクライナとロシアは依然として交戦中であるが、「6月3日までにウクライナ各地からレイプや脅迫などの性的暴力が疑われる事案が124件報告された。うち49件が子どもに対するもの」というニュースを見た。

本作のテーマは決して古びてはいない。
むしろ今見るべき作品だと言えるだろう。
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