菩薩

男はつらいよ 寅次郎紅の花の菩薩のレビュー・感想・評価

5.0

シリーズ48作目、マドンナ:浅丘ルリ子。

「満男もつらいよ」EP7、そして男はつらいよ最終章、遂にこの日が来てしまいました、長らくお付き合い頂いた方々ありがとうございました。以下、熱が入りすぎて超長文です(現在朝の5時)、どうぞお暇な時にでもご覧頂けると幸いです…。

1995年の作とだけあってスタートは阪神淡路大震災の被災地神戸から。しばらく音沙汰のない寅さんを心配し新聞広告まで出したさくら達であったが、四角いテレビ画面の中にあの四角四面の特徴的な顔を見つけホッと一安心、被災地に寅さんみたいな人がいたら本当に頼もしいだろうに。そんな折、久しぶりに泉ちゃんが上京、久しぶりすぎてまた「アポを取る」と言う文化を忘れてしまったらしいが、どうやら彼女には縁談が持ち上がっているらしく…そんな話を聞かされた満男は心にも無い強がりで彼女を突き放してしまう(寅さんの血だね…)。そんな満男の態度に失望し、結婚を決意し失意のまま名古屋へ帰る泉、一人寂しく乗り込む新幹線、虚ろな目で見つめる車窓、そして流れる安定の徳永英明、今作は今まで以上に徳さん推しが強い。泉の嫁ぎ先は岡山県津山、結婚式当日、正直文金高島田が猛烈に似合っていない泉はここに来ても周囲の反応とは裏腹に一人浮かぬ顔、口煩い世話役とハイヤーに乗り込みいざ式場に向かうも、細い道の向こうから対向車が迫ってくる、運転しているのは…なんと満男である!泉の相手は医者の卵らしく、しがないサラリーマンの満男には確かに勝ち目は無いのかもしれない、だが満男は結婚式を粉砕する為にかなり乱暴なやり方ではあるが実力行使に出たのだ、ダスティン・ホフマンとか比では無い、だがこの行動が「母の為に」結婚を決意した泉の心境をガラリと変えることになる。

ところ変わって舞台は奄美大島、そして姿を見せるあのマドンナ、そうリリーである。リリーが乗り込む海上タクシー、そこには浮かぬ表情で今にも海に飛び込みそうな沈みきった青年の姿が、渦中の満男である。そんな満男を気にかけるリリー(この時点では誰だか分かってない)、船から降りた彼を半ば強引に車に乗り込ませ、断崖絶壁で降ろす(いや、降ろすなよ…って感じだが)。ま、まさか、自殺する気?心配になり後を追うリリー、突然視界から消える満男、いや!そんな!死なないであんた!駆け寄るリリー、立ちションしてる満男(笑)当然リリーはガチギレするも、飯を食わせ宿はあるのか?うちに来なさいとお持ち帰り。どうやら年寄りと結婚して遺産を手に入れたらしく、この地に居を構えたらしいリリー、一ヶ月前くらいから居候がいるとのことだがその居候とは?そう!寅さんだ!満男、奄美大島にて寅さんと再会、そしてリリーもついに満男の正体に気づく(ここでもう号泣する俺)。「ハイビスカスの花」以来、久しぶりにリリーと生活を共にしている寅さん、寅さんの横にはリリーが、リリーの横には寅さんが、やっぱりそんな光景が1番良く似合う、仲の良さも相変わらずだが、お互い喧嘩っ早いのも相変わらずで、けどそんな二人の関係が羨ましくって羨ましくて。リリー三部作を制覇した皆様へのご褒美ですとばかりに思い出話に花を咲かせる二人、最後に会った時、寅さんはリリーの夢を見ていたと彼女に告げるが、そんな夢の続きがここで再現される。

しばらくこの地で3人で生活を共にする寅さん達、そこに柴又で博から満男の居場所を聞きつけた泉がやってくる(飛行機と徳永英明の歌に乗って)。何も知らない満男、砂浜に書いた「泉」の文字を、そっと波がかき消して行く。満男の前に立ちはだかる泉、きょどる満男、そんな若い二人を見守る寅さんとリリー、なんで?なんであんな事したの?どうして?と詰め寄る泉に、満男が返す言葉は…「愛してるからだよ!」、さくら、満男はとうとう、男になりましたよ…。そんな光景を目の当たりにし涙がぐむリリーの肩をそっと抱き寄せようとする寅さん、が失敗、けどこれがこの二人の距離感なのだと思う。

かくして結ばれる事となった二人、満男は泉を名古屋へ送るため別行動に、寅さんはリリーを連れ添い柴又へ帰郷する、寅さん最後の里帰りだ。当然街はパニック、とらや一同も久しぶりの再会に笑顔が溢れる。リリーを迎え盛り上がる食卓、宴もたけなわ、久しぶりにとらやの布団にもたれかかるリリー、笑みをこぼしながら思い出すのは、ここで過ごした数々の思い出だろうか。だが翌々日にはリリーの外泊が、と言うか寅さんのヤキモチが原因で喧嘩別れする事になる二人、一人柴又を去ろうとするリリーをなんとか引き止めようと説得するさくら、二階に上がり寅さんにありったけの想いをぶつける。お兄ちゃんとリリーさんが一緒になってくれるのは私の夢だった、お兄ちゃんみたいなわがままな風来坊を大事にしてくるのはリリーさんだけなのよ、そんな想いは、シリーズを見通して来た我らとて同じである。柴又を後にしようとするリリー、突然二階から降りてくる寅さん、「おう、リリー、送っていくよ。」、驚き振り返り憎まれ口を叩くリリー、ここの強がりがまたこの二人らしいのだが、最後のリリーの笑顔、二人を見送り大きく手を振るさくら、こんな嬉しい光景は無い。リリーは寅さんに尋ねる、「どこまで送っていただけるんですか?」、寅さんはこう答える、「男が女を送るって場合にはな、その女の玄関まで送るってことよ。」、リリーと寅さん、切っても切れない赤い糸、紅の花が結びつけた二人の縁が、そんな名シーンを生み出す。寅さんは多くの女性に恋をして来た、だがリリーに向けるそれは、明らかに「愛」、って結局、最後はまた喧嘩別れして寅さんは家を飛び出してしまうのだが、きっと再び二人はどこかで出会うのであろう、寅さんに「おかえり」を言える唯一のマドンナ、それがリリーなのだから。

リリーをマドンナに迎えた事もそうだが、満男と泉が結ばれ、いつもは賑やかなはずの元日を、さくらと博二人きりで迎える事も、なんだか特別な空気を感じさせる最終作。ラスト、再び被災地神戸に降り立つ寅さん、復興の兆し見え始める街で、頑張る人々にかける「ご苦労様でした。」が、寅さんの、そして渥美清の最後の台詞になる。まるで自分に向けたような、そしてこうしてシリーズを完走した我々に向けられているような。そんな寅さんに、そして渥美さんに返す言葉は、もちろん「ありがとう。」でしか無い。寅さん、また会いましょう、その時はさくら、またあのおかえりを聞かせてくれ。いつも心に寅さんを、これからもずっとずっと、寅さんは俺の心のヒーローです、男はつらいよ、これにて完。
菩薩

菩薩