阪本嘉一好子

扉をたたく人の阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

扉をたたく人(2007年製作の映画)
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この作品で2つだけ気に入ったところを書く。まず、最後の場面、ニューヨーク、ブロードウェー・ラフェイェッテ地下鉄のプラットフォームでのシーン。ウォルター(リチャード・ジェンキンス)のジャンべ”という太鼓の叩き方は怒りの爆発のように思える。入国管理局の不法移民の扱いに対しての憤り、それに、ターレックのお母さんであり、信頼関係を築き愛し始めたモナを失った悲しみが彼の叩き方に現れている。どこに自分の気持ちをはき出したらいいかわからないが、ニューヨークの地下鉄の構内の静けさのない場所で、行き交う電車の騒音に負けない叩き方をする。

次に好きなシーンはウォルターの表情や気持ちの変化。映画の冒頭でウォルターがいかに退屈な人生を歩んでいるかがよくわかる。ピアノの先生は何度も変え、最後の先生には才能がないとも言われ、ピアノを売るなら私に売ってくれとも言われた。大学の教授であるが、ひとクラスしか教えていなく、忙しいフリをして、講演を断る。ある大学生が論文を遅く出したけど、受け入れる寛大さもない。そしてその大学生に『まだシラバスが出てませんね』と言われる。ひどいことに、シラバスの年を修正インキで消し直して提出しようとする。いかに怠慢な教授かがよくわかる。教授との食事会でも話題に興味はなさそうで、受け身にまわって頷いてばかりいる。近所の人が話しかけても会話を続ける気は全くないようだ。

喜怒哀楽が全くなく、人生に何が起きたのかと思わせるような教授だ。そして、妻の死から、人間を閉ざしてしまったようだということが次第にわかる。

こんなウォルターの『扉を叩いた』のが『訪問者』であるシリアからのターレックとガールフレンド、ゼイナブ、彼の母親モナ(ヒアム・アッバス)である。ウォルターの眠っていて、死んだように凍りついた心の『扉を叩いて』たことにより、人生を全く変え、人間に戻してくれた。
ターレックとガールフレンドの突然の訪問者により、ウォルターは怒ったり、苦しんだり、、そして微笑みの表し方を再び発見した。

私もターレックによって、ナイジェリアの音楽家フェラ・クチ(Fela Kuti)
やナイジェリアのドラマー、トニー・アレンの音楽が「扉を叩いて』くれた。新発見だった。