ふかい

トスカーナの贋作のふかいのレビュー・感想・評価

トスカーナの贋作(2010年製作の映画)
4.8
ちょっと凄すぎないか…?
本物/偽物の二元論的な価値観からそれらが捨象されあらゆる境界が曖昧になった世界で、その日初めて出会った(とされる)男女が「15年連れ添った倦怠夫婦」を演じることになり…というストーリー展開を見るだけで、濱口竜介が影響を受けまくっていることが分かる(映画内において役者が割り当てられた人物ではないまた別の人物を演じるというテーマが「親密さ」→「偶然と想像」の第3幕まで連続している)
次第にどんどん「虚」が「実」を侵食していき、更に街で出会った人にその人の「息子」的な役割を担わされるんだからもう訳がわからない。が、会話の内容はひたすら「すれ違い」に対する悲しみと憎悪、過去を振り返ることしか出来ない絶望的な関係を表しており、シンプルで分かりやすい。
ドライブのシーンでキアロスタミだなぁ!と思わされるがそこからは完全にネクストレベル。小津的な切り返しも見られるが異なるのは目の前の役者の視線がカメラのレンズだけでなくちらちら他の対象物に移り変わる点だ(ラストの凝視と対になっている)
ジュリエットビノシュがおめかしをする場面は「晩菊」の杉村春子を思わせるほど美しくてチャーミング。肩を頭に乗せる伏線が効いてるぅー!
結局境目が曖昧なまま幕を閉じる展開はホンサンスの傑作「あなた自身とあなたのこと」を思わせる。別の誰かを演じて一からやり直すこと。ジェームズは部屋に戻ってくるのだろうか?
ラスト近く、2羽の小鳥が飛び立つ影が映るショット、映画のスクリーンを思わせる窓枠で終わるのも完璧。本当に素晴らしい。
ふかい

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