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悪は存在しないのふかいのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3
昔から映画に「重み」付けを直感でしてしまうクセがある。例えばPTAの映画だと、「ゼアウィルビーブラッド」は圧倒的に重くて、「インヒアレントヴァイス」は軽い。
近年の濱口作品では、「ドライブマイカー」が(上映時間的にも)重さに振り切っていて、「偶然と想像」が(短編集という形式的にも)軽さに振り切っていた。
本作は、その重さと軽さが共存している作品と感じられた。まず前提として、「悪は存在しない」という断定形のタイトルは非常に重いうえ、冒頭十数分の「自然と共にある生活」シークエンスは重い(言い換えれば退屈)
あまりの単調さに不安を覚え始めたところで、物語はドライブしていく。が、小さな村のコミュニティvs典型的な利益第一企業の対立という点ではまだ重い。徐々に軽さを持ち始めるのが、至極薄っぺらな「コンサル業者」の登場以後である。補助金のことしか頭にない社長も軽さを持たせるのに貢献している(後ろの絵とタバコを咥える姿がオーバーラップしているシーンは笑った)
本作でも白眉なのが車中のまったりトークであろう。芸能事務所の男の方は、今の生活に満足してないのでいっそ自然生活に溶け込もうか?という決断の軽さを押し出す。結婚観を共有するところなどは、現代のロメール的な駄話ともいえる(思えば冒頭のタイトルの出方もロメール作品で見たことがあった)
「マッチが成立しました」にズームインする馬鹿馬鹿しさ!偶然と想像の第二話も想起させる。
正直ここの一幕だけで大満足だったのだが、そこに「娘の行方不明」という非常に重い事件が発生し、石橋英子の音楽も重さをブーストさせる。
本作の微妙なバランスの悪さは、第一幕(自然と共にある生活)が長く、第三幕(神秘的体験)が短いことにあるのではないか。「資本主義とグランピング」というこれ以上なく面白い設定ながら、投げやりな畳み方には少しがっかり。
「ハッピーアワー」で見た役者がチラホラ出ていて懐かしかった(うどん屋夫婦)
主人公もそうだし、なにより花ちゃんの画力もとい目力(井上和に超似ている)が凄かった。

追記
過去作に比べてあまり本作に惹かれない理由、濱口作品の「偶然性」による奇跡の瞬間(「ドライブ・マイ・カー」での高槻の告白、「PASSION」でのトラックなど)があまり見られず、わりと淡々と進んでいるように見えるからかもしれない…
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