30歳とは思えない小津安二郎監督の練達した演出が、そそっかしい慌て者だけれども憎めなくてみんなから愛されるおじさん喜八をめぐる人情ドラマに絶妙な笑いと泣きのニュアンスを組み入れて完成度の高い傑作に。坂本武の二枚目ではないけれど愛嬌のあるおじさん顔が喜八のキャラクターにぴったり。
でもそんな喜八が弟分と自分が愛した女性を助けるため自己犠牲をしたはずなのに、それを一気にひっくり返してしまうラストがお涙頂戴大好きな日本のドラマに後足で砂をかけているようで痛快。そんな喜八の姿は『男はつらいよ』の初代おいちゃんの「馬鹿だねえ」という言葉がよく似合う。