chiakihayashi

ソハの地下水道のchiakihayashiのネタバレレビュー・内容・結末

ソハの地下水道(2011年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

 ナチス占領下のポーランド、地下水道にユダヤ人たちを結果的にかくまい通した下水修理の労働者ソハが主人公。ソハは決して英雄でもなければ善人でもない。副業としてコソ泥稼業に精を出し、強欲でもあれば、狡猾にも非情にもなる人間だ。かと思えば、家族を愛し、信心深い面もある。そんな彼が、地下水道に14ヶ月間も潜んでいたユダヤ人たちに関わるなかで、どのように変わっていき、いかなる決断をするに至ったか。

 恐怖が充満する狭苦しい地下の空間。ユダヤ人同士の間にも打算や裏切りがあり、ちょっとした運・不運が生死を分かつ一方、女と男の間にはロマンスが生まれ、セックスがあり、その結果としての新しい生命の誕生もある(!)。生臭いほどに凝縮された人間ドラマ、豪雨で下水道を濁流が襲う場面の圧倒的な迫力。

 そんな画面を前にして、監督の性別についての私のこだわりなど、一瞬、吹き飛ばされてしまった。ホランド監督は英語でこの映画を製作することを拒否、ポーランド語、イディッシュ語、ウクライナ語、ドイツ語などが入り混じる歴史的事実にこだわり抜き、暗闇の照明演出や地下水道のセットなどにおいて優れた技術陣をまとめあげたのである。その力量にはただただ脱帽する。

 だが、レオナルド・ディカプリオが詩人のアルチュール・ランボーに扮した『太陽と月に背いて』(1995年)で、ベルレーヌが妻に暴力をふるう描写において、きっちりと女性ならではの視点を見せたように、今回も、極限状況での〝母性〟の描き方に女性のホランド監督ならではの洞察が活きていると私は思う。
chiakihayashi

chiakihayashi