「ひっくり返った豪華客船から脱出する」と言うとシンプルな話ではありますが、山場の作り方が凄まじく上手いので終始全く退屈しません。
冒頭20分で登場人物たちを「愛すべき人々」に仕立て上げる手際の良さからも分かる通り、語り口が相当に上手な映画だと思いました。
上下反転した豪華客船、というインパクトの強いヴィジュアルのおかげで、日常が「一転」して非日常に突入したことが一目でわかります。「見てわかる」というのは極めて映画的な特徴ですね。
それにこのヴィジュアルは極限状況における価値観の転倒にも対応しているように思えます。生きるか死ぬかの状況で、変人扱いされていた男が誰よりも頼り甲斐のある男となり、中年の太ったおばさんがその特技を活かしてみんなを助ける姿が描かれます。
このように、作品全体を通して、「人間は自身の力を使って困難な状況を切り抜けることが出来るのだ」というポジティブで力強いメッセージが気持ち良いです。
人の死に対してもだらだらと感傷的になり過ぎませんし、映画全体の尺もそれほど長くありません。過不足なく脱出したところで終わる潔さが凄まじく良いです。
実際に登場人物たちが潜水するシーンで息を止めてしまうくらいに映画に没入してしまいました。まさしく手に汗握る120分です。
