Yoshishun

鳥のYoshishunのレビュー・感想・評価

(1963年製作の映画)
3.9
モンスターパニック映画の原点にして金字塔。ヒッチコックの前作『サイコ』が毒母に脅かされ続けた哀しき殺人鬼だったが、本作は理由もなく執拗に人々を襲う鳥たちが描かれる。この理由もなくという点が重要で、後続のホラーのように、明確な理由なしに身近なものに突然襲われる理不尽さと恐怖に溢れている。

開始して約1時間程度は主人公てあるメアリーとミッチの説明や周囲の人々とののんびりした交流が描かれるが、上陸早々カモメに襲われたり、真夜中でもないのに扉に激突してくる鳥がいたりと、不穏な空気が漂い続ける。決定的なのは、ミッチの母の友人宅で見つかった男の惨死体。床には鳥の死体だらけで、死体は両目をくり抜かれ全身血だらけ。この当時のホラー映画としては中々ショッキングなシーンだろう。

早く暖炉を塞げ!とか、何故子どもたちを無理やり外に引きずり出して烏の格好の餌にさせるんだ!とか、リアルな鳥たちの襲撃の緊迫感を出すための演出がツッコミどころだらけだが、緊迫状態でこそ人は冷静さを失うことへの暗示ともとれる。突破されたらひとたまりもない電話ボックスへとわざわざ逃げ隠れるヒロインのアホさも滑稽でいてリアル。

最早鑑賞していなくても有名過ぎるラストシーンには、それまで息子想いの毒母に愛情が芽生え、一筋の太陽光が照らす場所へと出発する希望と、2度と元の場所には戻れない絶望との2面性を感じさせる。鳥嫌いなのに鳥料理は大好物なヒッチコック監督が、身近な対象を恐怖の対象へと変貌させる手堅い演出と、理不尽さに溢れたモンスターパニックの祖として今なお色褪せないスリルを味わえる作品だったといえる。導入部ののメロドラマさえもっと短ければより楽しめたのも事実だが。
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