蛸

深夜の告白の蛸のレビュー・感想・評価

深夜の告白(1944年製作の映画)
4.1
「悪女に誑かされて殺人に手を染めてしまう男」というストーリー展開はまさしくフィルムノワールのジャンル的な雛形です。
正直、妖艶なファムファタールのせいで狂っていく男…というイメージをもって鑑賞に臨んだので(いや大筋ではその通りなんですけどね)、のっけから人妻を口説く気満々の主人公には流石に笑ってしまいました(こいつどうしようもねえな、と)。

物語は主人公の回想によって語られていきます。ノワールの特徴であるヴォイスオーバー演出によるモノローグをはじめとして台詞回しが一々小粋な点は脚本に携わったチャンドラーの功績なのかもしれません。
主人公を心理的に追い詰める同僚をエドワード・G・ロビンソンが演じているんですが、これが『飾り窓の女』での役柄と逆の立場となっているのが面白かったです。
前半は少し退屈に感じられたのですが、主人公らが殺人を犯してからのサスペンスは流石ワイルダーです。頭の切れる同僚が事件の真相に近づいていく様を指をくわえて見ているしかない、という主人公の地獄のような心境を追体験できます。
演出に関して言うと、「主人公がドアの後ろにヒロインを隠しながら(庇いながら)ヒロインを疑っている同僚と会話する」ショットなんか本当に象徴的で素晴らしいなと思いました。閉塞感に満ちた物語のはずなのに、どこか軽快なテンポで話が進んでいくところもワイルダーっぽいです。
ヒロインとの関係性の処理の仕方も、一捻りある展開が良かったです。
陰影表現も巧みで、まさしくノワール然とした映像も楽しめましたし、ラストの無常観も素晴らしい。言葉よりも煙草の煙が多くを物語っている気がする映画ですね。
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