Nella

吉原炎上のNellaのネタバレレビュー・内容・結末

吉原炎上(1987年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

「大吉原展」やるなら、これ上映しないと片手落ちだと思うなー。

とにかくリアルだった。子供の頃に父が見てるのを一緒に見てて(まあ子供が見ちゃいけないんだろうけど…)リアルで怖かったよ。
【以外ネタバレ】


処女のまま連れて来られた女郎が客に水揚げ(初めてヤラれる事)されるのが嫌で逃げる時の、名取祐子の演技が本気すぎてマジで怖かった。本気で「嫌だよおお!嫌だあああ!!うわああああ!!!」って泣き叫びながら、腰まで水に浸かって川を(というか人工的に作った堀)渡って逃げようとするんだけど、いくら街中の緩いお堀でも女の足では流れに逆らえなくて簡単に捕まっちゃうんだよね。あんなふうに、まるで屠殺されようとしてるみたいに泣き叫ぶほど嫌がってる女性に、よく性暴力なんてできるなぁと、子供心に呆れたものでした。
あと西川峰子の演じる女郎は、弟を帝大に行かせるために体を張って稼いだ挙句に梅毒になってしまう。脳に毒が回って発狂して、もちろん治療なんか受けさせてもらえず、死ぬまで布団部屋でほっとかれるんだよね。で、死んだら樽詰めされて捨てられるの。当然弟どころか家族にも死んだ事なんて知らされない。誰からも感謝もされない。
ガチで怖かった。女郎って大体みんな梅毒で死ぬから30過ぎまで生きられないんだよね。

ほんとこれが花魁の、女郎のリアルだと思うし、名取祐子は美人で売れたから運良く金持ちに身請けされて堅気になれたけど、そんなのほんの一握りだけだよ。吉原なんて、今で言うソープ、風俗、要は人身売買産業だよ。ソープにもガチ恋営業とかあるし、「風俗に沈める」みたいな言い回しもある。
仕方なく性産業が必要な女性にしたって、こんな劣悪な労働環境に身を置きたくはないでしょ…。

怖かったけど見といて良かったと思う。「お金と女性が集まる吉原は華やかな天国」という誤った歴史認識を覆して余りある。女性たちは日常的に暴力を振るわれ暴力によって支配されていたという、厳然たる事実を突き付ける作品だと思う。

五社英雄はねぇ、「鬼龍院花子の生涯」でも、随所にフェミニズムを滲ませてるので是非見てほしい、特に主人公の松恵が大人の女になりつつあるのを見て、養父の鬼政がレイプしようとするシーン。ここほんと素晴らしいと思うんだよね。まぁ原作が宮尾登美子ってのもあるが…

余談だが有島武郎の「生まれ出づる悩み」は、画家になりたいのに貧しい漁村出身で、生活に追われて漁師やらなきゃなんなくて辛いなー、って話なんだけど、天候不良とか不漁が続くと景気悪くなって、村から顔立ちの良い女の子がいつのまにかどんどん消えていく…みたいな描写があってゾッとした。男性の主人公、男性視点から見たらただ消えていくだけなんだけど、つまりお金と換えられて、どこかでこの映画のような酷い暴力を受けてるってことなんだよね。文学とはいえあまりに文学的に暴力を無い事にしすぎじゃないか?と思った。
Nella

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