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FAKEのyadokariのレビュー・感想・評価

FAKE(2016年製作の映画)
3.7
森達也のドキュメンタリーの面白さは逆手に取るスタイル。この映画もTVで伝わるゴーストライター騒動を逆側から撮っただけではなく、ドキュメンターなのにヤラセが見える。そこが映画としての見所だったりする。主演の佐村河内さんを揺さぶり琴線を震わせ共鳴させたのだ。愛の物語に。

フジTVのプロデューサーがやってきて、面白ければそれでいいというTV作りとその番組を見ている佐村河内さんのやるせなさ。なんでそんなTVばかり見るのだろうという気もしないではないが、この騒動で仕事も友達も奪われて残ったものが奥さんと猫一匹だった。猫もいい表情を伝えている。

外国の記者の取材での音楽家としての論理的な意見はいっけん最もだと思うが、でもそれは譜面を書けて楽器を演奏出来て初めて音楽家として成り立つという西欧音楽的な理論のような気がする。例えば音楽としてのアイデアを楽譜や楽器以外に伝えることはジャズでもってやっていることだ。

論理的言説の教理でしか伝わらないものではないと思う。芸術と呼ばれるものは。そこに親鸞の信心とそれをささえた奥さんの存在が見え隠れしたような作品にも思えた。ラストの結末は信じることが一つのテーマとしての、奥さんの愛だったり、音楽への想いだったり、映画への執着かな。

森達也が佐村河内守の映画を撮りたいと思ったのは、どことなくオウム真理教の麻原と重なる部分があったのかもしれない。
(2016年06月06日)
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