ミシンそば

レニー・ブルースのミシンそばのレビュー・感想・評価

レニー・ブルース(1974年製作の映画)
4.5
「偽善」と言う概念が永遠に続く千年帝国であることをまざまざと見せつける映画。
「卒業」や「真夜中のカーボーイ」、「わらの犬」なんかを経てノリに乗っているダスティン・ホフマンは、当時はオスカーこそ獲っていなかったが、自分の「役割」をはっきりと理解している演技をする。のちの「クレイマー、クレイマー」の片鱗なんかも少しだけ見れる演技は、ハッキリ言ってすさまじい。

それでも演技合戦という点だけで言えば、レニーの妻ハニーを演じたヴァレリー・ペリンに軍配が上がる、と言うのが個人的な印象。
表現としては適切ではないかもしれないが、彼女のファム・ファタール的魅力や心の弱さから、彼らが向かう破滅への序章を感じられる。

偽善を全面的に推し、周囲に気づかせる様は、レニー・ブルースが真に気骨のある男であることを示していると同時に、時代が早すぎたことも感じさせる内容であった。

ヤクをやり始めてからの、特に警察の悪意がより露骨になってきた終盤のショーからは何だか痛々しく、見ていられない気分にもさせられる。
いい映画だとは思ったけど、その部分からは「早く終わってくれないかな」と思いながら観ていた。
そして、偽善と悪意はこれからも続く……

それにしてもボブ・フォッシーの演出能力よ。
自分がオールタイムベストに挙げる「オール・ザット・ジャズ」の片鱗ももちろんそうだが、偽善を嫌う露悪家という要素はボブ・フォッシーと相性がいいんだろうか。
レニー・ブルースやボブ・フォッシーには、もうちょっと生きてて、後の世代をその能力で以て荒らしまわってほしかったな。