まぬままおま

冬物語のまぬままおまのレビュー・感想・評価

冬物語(1992年製作の映画)
5.0
エリック・ロメール監督作品。

「四季の物語」シリーズ。冬。

フェリシーはバカンスで訪れたブルターニュの海辺の町でシャルルと出会い、劇的な恋愛をする。そんな最愛の恋人であるにも関わらず、彼女が自分の住所を伝え間違えたことで、離れ離れになる。その間に彼女は、彼との間に子どもができ、恋人もいる。しかしそれでも再会できると信じているのである。

「信じられない偶然を信じること」そんな〈教訓〉を得ました。

フェリシーは最愛の恋人との再会をずっと信じているのだが、美容院のマクサンスと図書館員のロイックを時には恋人にして寄り添っている。そして何か「心から惚れていない」と思えばすぐさま別れを切り出す自由奔放な女性である。特に別れる時に、恋人に対して「君以上にいい友達はいない」というのは痛烈である。
しかし彼女は、二人との出会いと偶然の出来事から「信じられない偶然を信じる」力を得るのである。例えばマクサンスとの場合。彼が新しく美容院を経営する新天地に一緒に向かう。そしてそこにある教会へ子どもに導かれ、祈るのである。
またロイックとの場合。マクサンスと上手くいかないと思った彼女は、新天地を去り、ロイックのもとを訪れる。その時、偶然誘われるシェイクスピアの『冬物語』を観劇する。そして劇中に登場する「信仰が生き返らせた」ことに涙を流すほど深く感動するのである。
そのような偶然の出来事に出会い、信じる力を享受したからこそ、彼女は、バスで偶然にもシャルルに再会できるのである。

私も偶然を信じる強さを把持していたい。

蛇足1
冒頭でバスのシーンを挿入することで、バスでシャルルと再会する伏線にしており感嘆。またバスに揺られることは、非主体的な移動だから、偶然性の非主体性を象徴しており、素晴らしい。
またフェリシーとシャルルの劇的な恋愛の最中、セックスシーンがちゃんと登場するのも新鮮だった。

蛇足2
マクサンスとロイックの人物造形も素晴らしい。マクサンスは本棚が空っぽで、ロイックは本の虫である。フェリシーは対極な性格の二人を行ったり来たりするのである。しかし彼女の「本の虫より力を感じさせる男の方がいい」という発言は、私に深く刺さってしまった。

蛇足3
ロイックが友人とする哲学談義も個人的には好き。フェリシーはそれにうんざりするのであるが。本作でも、パスカルの賭の断章が登場しており、ロメール監督は、パスカルを敬愛しているのがよく分かる。
またタイトルが、シェイクスピアの『冬物語』から用いられていることは、鑑賞前、全然知らなかった。ロメール監督は当たり前のように、シェイクスピアについても造詣が深く、教養の深さを思い知らされる。

蛇足4
子どものドーラも生き生きと映画に登場している。
新天地からパリに戻るときの「本当は」という表情が嬉しさが滲み出てて素晴らしい。またシャルルと再会した時、すぐさまパパと呼ぶのもとてもよかった。