ふてい

逢びきのふていのネタバレレビュー・内容・結末

逢びき(1945年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

1945年公開の映画だし、ストーリーは目新しいものではないけれど、構成が上手くて素晴らしい映画だと思う。

 駅の中に開かれた喫茶店で、小さな丸テーブルに身を寄せ合うようにして横並びに座る男女。二人の間に会話はなく、曇った表情を浮かべて紅茶を啜っている。そこに女性の知り合いらしき婦人が現れて、二人の前の空いた席に座る。婦人は勢いよく話し出し、女性の表情に暗さが増していく。列車が到着した男性は席を立ち、店を後にする。その背中を女性は名残惜しげに見送り、その間も婦人はお喋りを止めない。女性と婦人は同じ列車で帰路につき、女性は列車の中でも喋り続ける婦人に気分が悪いことを伝え、婦人を黙らせる。目的の駅に着き、婦人と別れた女性は自宅に戻り夫に迎えられる。家には小さな息子と娘がいて、夫と次の日のお出かけについて話すけれど、彼女の表情はまだ影がかかっている。
 ここから彼女の回想が始まる。喫茶店にいた男女は不倫関係だった。違う街に住む男女の人生は些細なことをきっかけに突如交わり、二人は恋に落ちた。会えるのは木曜日だけで、食事を共にしたり映画を観たりして愛を育んでいく(見たところ多分めっちゃプラトニック)。しかしその関係は秘密のもので、だからこそ燃えるものもあるが、長くは続かない。二人は愛し合っているが、それと同じくらい家族を大事に思っていて、会うたびにその二つの愛が両立できない現実や家族への罪悪感に悩み、心をすり減らしていた。そんな二人の関係は、男性が仕事でアフリカに行くことを決めたことで終わりの日を迎える。そしてその最後の日が冒頭シーンだった。
 二人の愛の日々を目撃した後に見るそのシーンは、彼女の抱く喪失感や当惑感、婦人の言動に腹を立てる気持ちを強く理解させ、とても苦しいが美しかった。

男性が別れを決め、その思いを女性に伝えるシーン。女性が列車に乗ったのを確認した男性は窓越しに、「許して」と言う。「何をなの?」と問う女性に彼は「すべてを 君に出会ったこと 愛してしまったこと 辛い思いをさせたこと」と答え、それに対して「私のことも許して」と彼女は言う。そしてその瞬間、言い終わるのを待っていたかのように列車が走り出し、二人の間に距離を作る。二人の愛がたっぷりと科白に詰まっていて、悲しいが良いシーン。
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