月うさぎ

重力ピエロの月うさぎのレビュー・感想・評価

重力ピエロ(2009年製作の映画)
3.5
「ハルが二階から落ちてきた」  
桜の花びらの舞う春。春は重力をものともせずに2階の窓から飛び降りる。

加瀬亮(長男・泉水・いずみ)、 岡田将生(次男・春・はる)、小日向文世(父)
この3人の醸し出す空気感と相乗効果が素晴らしい。特に岡田将生の春の存在感がいい。自分自身をつかめていない、病んでいる少年を、どういう人だかわからせない感じに、しかも親近感を失わせずに演じています。
この映画で、春を演じるにあたって岡田将生は「春は答えがない役なので」「無」だと思って演技をしたと語っていました。
演技について「手を抜いたところは一時もない」と言っていた通りに、確かに春君は映画の中に生きていました。

岡田将生の持つ美とは、ひけらかす美ではなくて漂ってくる美です。人を拒む美しさではなく見つめていたい美しさです。顔の造作という以上に表情に大きく由来するものです。
大体、役者って普段は顔が目立たない感じのほうがいいんじゃないでしょうか。色々な役ができますからね。

この年2009年度の新人賞を総なめしたことでも、彼の演技者としての評価、その圧倒的な魅力がお分かり頂けるでしょう。

2009年度受賞記録
第52回 ブルーリボン賞 新人賞受賞 : 重力ピエロ
第52回 ブルーリボン賞 新人賞受賞 : ホノカアボーイ
第34回 報知映画賞 新人賞受賞 : 僕の初恋をキミに捧ぐ
第34回 報知映画賞 新人賞受賞 : 重力ピエロ
第34回 報知映画賞 新人賞受賞 : ホノカアボーイ
第34回 報知映画賞 新人賞受賞 : ハルフウェイ
第22回 日刊スポーツ映画大賞 新人賞受賞 : 僕の初恋をキミに捧ぐ
第22回 日刊スポーツ映画大賞 新人賞受賞 : 重力ピエロ


【ストーリー】
兄は生命工学を勉強する大学院生。 冴えない男。一方容姿の美しい弟はその気がなくても女性を惹きつけてしまうのだが、常に冷淡にあしらうばかり。
こんな似てない兄弟だが非常に仲がいい。
彼らの名前はどちらも英語にすると同音異義語のPRING。母の命名だ。

パブロ・ピカソが死んだ日に春は生まれた。1973年4月8日だ。
ピカソの生まれ代わりだという父の言葉通り、春には絵の才能があったが、春はその才能を快く思っていないようで、落書きを消すバイトをしつつ定職を持たずにいた。

最近近所に連続放火魔が出現しており、春は、放火事件に興味をもっているようだ。
兄は弟を見守りつつ訝しむ。

さて、ストーリーはこの先は知らないで観た方がいい映画だと思います。
検索しないで観てみてくださいね。

春のお守役のようなお兄ちゃんは、イケメンでモテモテでアートの才能がある弟を
羨望と優しさの相半ばする気持ちで愛してきた。
いつも物静かな傍観者的な彼が、弟と亡き母のために救済を決意するシーンがまた感動的。この部分だけはハラハラしちゃいました。

お父さんの達観したような突き抜けた楽天的な明るさも、懐の深さという印象で決して腑抜けた男ではないことを示しています。

一つ惜しまれるのは、父母の若いころのエピソードのシーン。
あの髪形は何?!
日常を描いた作品だと画像を加工しちゃいけないと思っているのでしょうか?
それって日本映画の勘違いじゃないかと思うんですよ。演劇じゃないんだから。長髪のカツラひとつで若い顔できあがり。観る人の方で若い二人という事で想像して下さいね。というのは、無理があるのでは?
役者の演技力にすべて負うにも無理がありすぎです。
「ベンジャミンバトン」のブラピの若い顔の(もちろんCG)自然で美しかったこと。メイクだって技術が進んだこの時代。
もうちょっと工夫と努力が欲しいものです。

物語の結末に法治国家を信奉する方は拍子抜けすると思われますが、私はこれでよいと思います。
いいんだよ。あんなやつ。(^◇^)


伊坂 幸太郎の同名小説を映画化したものですが、本作にミステリー色はほとんどなく(犯罪は出てきますが)家族の絆や人間性の本質とは何なのか。ということを考えさせるお話しになっています。

原作だと探偵とかいろいろ他人がでてきますが、本作は父親と二人の息子+亡くなったお母さんを軸にしています。
この親子の醸し出す雰囲気が好きなのですが、これは映画だからこそ表現できている気がします。
この映画の空気感が好きなら、原作は無視していい気がします。
家族関係の設定が違うだけで随分印象が変わってしまいますから。
(原作のほうが好きな人もいらっしゃいますからあくまでも私見です)

ストーリー的には「衝撃の」というのではないですが、この父はすごい父であり夫ですよ。
序盤はゆる~く、最後には迫力をもった存在へと印象が変わります。
ミステリーでは全然ありませんのでそういう期待はなさいませんように。

ところで、伊坂さんの小説ってイケメンに対して意地悪ですよね。
映画では次男・春が本当の主役になっています。
全然決め顔作ってないのに、しかもカッコいい役じゃないのに、服装も地味でこ綺麗じゃないし髪形も全然イケてないのに、いい顔だな~って(^^)
だって時々とてもいい顔をするんですよ。
……単に私の好みってだけだったりして( ´▽`)

春役の子役の子も超かわいいです!
泉水役の子役も 加瀬亮にそっくりで目を疑いました。
(追記:春君を演じたのは北村匠海❗️子どもの頃からこんなに可愛かったのか‼️)

人間の性質において遺伝子と環境はどちらが優先するのか。
血のつながりと愛情のつながりとどちらが家族の絆として強いのか。

ストーリーよりも「重力ピエロ」のタイトルの意味が最大の謎かもしれません。
映画の最後にその意味を教えてもらえます。
人はいかにすれば重力から自由になれるかってことを。
月うさぎ

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