月うさぎ

ピンポンの月うさぎのレビュー・感想・評価

ピンポン(2002年製作の映画)
4.3
「ヒーロー見参!」
それはきっと男の子だけに効く魔法の呪文
「ヒーローって信じる?」

「鉄コン筋クリート」の松本大洋原作の青年漫画の実写化!
と言って「おっ!」と思う人となんのこと?という人に別れるだろうな。
 
原作がとても好きだったのですが、この実写も悪くないって思えた珍しい映画の一つ。
湘南の昭和のどこか懐かしい感じの表現も上手。

漫画の世界はかなりアートでとてもレトロ
ポップな感じもないし、イケメンなんか一人も出てこない。
ペコもスマイルも原作の絵に似てる訳じゃない。役者さんの方が美形。でも、雰囲気はかなり近いんですよ。窪塚洋介の天衣無縫というか、真っ直ぐな幼児性の表現は特筆もの。どうみてもまんまペコだよ〜!

アクマとドラゴンに関しては見た目もそっくりすぎてひっくり返りそうになっちゃった。😆

ジャンルとしてはスポーツ系の部活ものっていえばそうなるんだろうけれど、
描かれているのはもっと大人な人生哲学。
幼馴染の男の子同士の友情や、スポーツに熱中する熱い日々や、成長と挫折。だけじゃない。
スポーツとはたった一人の勝者と、多くの敗者を生む、シビアな世界。
その中で自分の個性と向き合い、生の自分を受け入れる事。それが大人になるということ。
そして勝ち負けを超えた高みに辿り着く人だけが見える「てっぺんの景色」
分かち合える同士がいる幸せ。
やっぱヒーローは本当にいるんだね。

少年たちの側に正しき大人がいる事の重要さも全てこぼさず描けている。原作の良さを殺す事なく。

どこかズレているような演出が、何故かしっくりくるのはどうしてだろう?
オーバーなCGも別に邪魔じゃない。
余白たっぷりなセリフも原作に沿っている。

名言がいっぱい!
ふざけているようで、心の奥にじわっとくるのが不思議。

「この星の一等賞んなりたいの。卓球で、俺は!そんだけ!」
「勝つために誰か引きずり落としたり。そういうの 好きじゃないんだよ」

「ねえ、ペコ。ヒーローって信じる?
ピンチになったら必ず助けに来てくれるってやつ」
「頂点に立たなければ、見えない風景というものがあるんだよ」
「なにしろ才能ってものは、求める人間にのみ与えられるものではないからなぁ」


みんな素敵な奴らに思える事が気持ちいい。

脚本宮藤官九郎。そうか。脚本がいいんだ。この映画。

「愛してるぜ!」


(以下 小ネタ)
原作漫画の連載は1996年〜1997年
1996年といえばアトランタオリンピックの年だが、当時卓球は注目スポーツではなかった。
卓球少女愛ちゃん(当時7歳)がテレビに出始め、話題になっていたものの、オリンピックの話題は柔道だけだったような。
卓球はオタクのスポーツ、根暗な競技、なんてイメージだったはず。
だから卓球でヒーロー🏓なんて、今と違ってものすごく「大胆な」設定のはずなんですよ。

映画のキャストも大胆
当時23歳の窪塚洋介が高校生のペコ
当時29歳のARATAが高校生のスマイル
ドラゴン役の中村獅童は30歳

高校生としては老けすぎなキャストだけれど、作中の重いセリフや古臭い雰囲気とマッチしていて、非常に効果的。勝者、敗者の心理にも説得力が出ていて、とうの昔に大人になった今の私が観ても共感できる。

夏木マリさんのオババは逆に若くて50歳
これまたカッコいい!
月うさぎ

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