ボブおじさん

現金に手を出すなのボブおじさんのレビュー・感想・評価

現金に手を出すな(1954年製作の映画)
3.9
ジャン・ギャバンの戦後の代表作の一つであり、フランス版ギャング映画の流行のきっかけとなった作品でもある。監督は「幸福の設計」でカンヌを制したジャック・ベッケル。

オルリー空港で5000万フランの金塊強奪に成功したマックス(ジャン・ギャバン)とリトン(ルネ・ダリー)。盛りを過ぎ老境に差し掛かった2人は、この仕事を最後に静かな隠退生活を過ごそうと思っていた。だが、ナイトクラブの踊り子ジョジィ(ジャンヌ・モロー)につい仕事のことを話してしまい、彼女の情夫である麻薬密売組織のボス、アンジェロ(リノ・ヴァンチュラ)が金塊の横取りを企む。マックスは脅しを受けたリトンをかくまい、早く金塊を現金に換えようとするが、一味にリトンを拉致されてしまう。

ラストの派手な銃撃戦を除けば静かな映画だ。画面からギャングたちの生活感が滲み出てくる。若い踊り子に入れあげているリトンに対してマックスが自分のアパルトマンで酒を飲みながら〝鏡を見てみろ俺たちはとっくに盛りを過ぎている〟と言って女と別れるよう迫るシーンは哀愁を帯びた名シーン。

一方、暗黒映画(フィルム・ノワール)に欠かせない敵役を演じたリノ・ヴァンチュラは、自信に満ちた堂々の貫禄で、とても映画初出演とは思えない。鋭い目つきとふてぶてしさが新興ギャングの役にぴったりだった。

ジャン・ギャバンの人生を下りようとしている昔気質のギャングとは対照的なヴァンチュラの存在感が、より一層主人公の印象を鮮明なものにしている。


〈余談ですが〉
この映画でジャン・ギャバンの向こうを張り、その鋭い目つきと堂々たる体躯で存在感を示したリノ・ヴァンチュラは、元々はプロレスラーだった。この映画でギャバンに認められた彼は、この後ギャング映画に欠かせない悪役となり、やがて映画の主役にまで上り詰める。今ではプロレスラー出身の役者は珍しくないが、彼はその先駆けだろう。