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人情紙風船のleylaのレビュー・感想・評価

人情紙風船(1937年製作の映画)
4.3
昭和12年製作、天才と言われつつも28歳という若さで戦地で病気のために亡くなった山中貞雄監督。初鑑賞です。

5年のキャリアで26本撮ったものの現存するのはたったの3本。今作は遺作になります。「人情紙風船が遺作とは、チト、サビシイ。友人、諸先輩がたには、いい映画をこさえてください」と遺して亡くなった。

小津監督とも親交が深く、小津さんに影響を与えた監督でもあります。

今まで観た時代劇の中で一番リアルな江戸時代の町民や家並みだった。

歌舞伎「髪結新三」をモチーフにした作品。

長屋の町民たちの様子が明るく賑やか。首をくくった人の通夜にみんなで飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。大家さんと長屋の住人のやりとりは、まるで落語の世界です。人の生き死にを身近に目にしているから、江戸庶民はたくましいのですね。

髪結いの新三のしたたかさを描く一方で、プライドをなくした浪人・股十郎と妻の悲哀を冷淡に描く。妻が内職で作る紙風船…
時代劇のイメージを変えてくれるような作品でした。

土砂降りの雨のシーンが見事です。この時代では大変なはず。黒澤「七人の侍」小津「浮草」の雨のシーンは今作に影響を受けたのかなぁと思えるぐらい。雨の上がった晴れ間の空も美しかった。モノクロなのに色が見えた。素晴らしかった。
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