TaiRa

人情紙風船のTaiRaのレビュー・感想・評価

人情紙風船(1937年製作の映画)
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初見だったけど、これまた凄かったな。二十八歳でこの境地か。ホントに天才だったんだな。

紙風船みたいに軽くて脆い人情って事なのね。長屋に住む老浪人の首吊り自殺から始まるけど、その死は直接見せない。死を徹底して省略して軽くドライに扱う。それがもの凄く殺伐としていて怖い。お通夜と称して大家に金たかり、宴会開く長屋住人の薄情さ、それと同時に存在する人間的な可笑しみや魅力が凄い。長屋で暮らす浪人と内職で紙風船作ってる妻の絶望的な空気感。職を求めてツテのある武士に付きまとう浪人の姿も痛々しい。土砂降りの雨が残酷極まりない。暴力的な雨。ヤクザに無許可で賭場開いてる男の無謀な生き様も、武士に嫁がされそうな質屋の娘の誘拐も、かなり低体温なまま描かれる。山中は絶望で感情が失せた人間をよく描いてる。立ち尽くしたり、黙り込んだり。そういうリアリズムの上に立ってる。人情味溢れる助け合いもなければ個人の自由もない、ただ順番に死が訪れ、生きてる人間はいつも通りの日常を過ごす。最後に至っても死は省略され悲しむ者はいない。男たちは運命になんの抵抗も出来ず殺されて行く。山中はこれの封切り当日に赤紙が来たらしい。一年後に戦病死。山中の死を80年後に悲しむ。
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