冬の亡霊

それでもボクはやってないの冬の亡霊のネタバレレビュー・内容・結末

それでもボクはやってない(2007年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

痴漢冤罪になった時の救われなさ。やっていない罪を認めろと非人道的な扱いを受け続ける。
「この人痴漢です」と声に出すのはすごく勇気がいるだろうから、女子中学生が痴漢されていたのは確からしいと思えるが、痴漢したのが自分でない事をどうやって証明できるのだろうか。

痴漢は卑劣な犯罪で、到底許されるべきものではないが、本当に痴漢してた奴が罪を認めて罰金を払えばすぐ保釈され元の生活に戻れるのに対し、無実だとしても認めなければ勾留され、場合によっては起訴され、長い裁判で勝てる確率はすごく低いという日本の刑事裁判制度の異常さに焦点を当てている。

示談にせず裁判で争うメリットが少ない、という現実を知りながら、それでも否認し続けるのは、自分が無実なのが揺るぎのない真実だと分かっているのに罪を認めるのは絶対に間違っていると思うからだ。たとえそれが精神論だとしても、諦められないのは当然だ。

淡々としている部分が大半で映像的に大きな動きがあるわけではないものの、内容のインパクトはでかい。
駅員も警察も検察も自分の意見を主張しても聞かず不利な証拠をでっちあげて貶めるような事しかしてくれない絶望。
裁判で、自分が無実である事や他の証人尋問の意見が違っている事を主張したくても、意見を求められていない時に声を荒げれば、意見を聞いてもらえるどころか心証を損なうだけ。

確定的な証拠の無い事件を扱う以上、心証とか経験による勘とか不確定要素も含めて論拠にせざるを得ないのは理解できるが、人の一生を左右する判決が裁判官という一個人に委ねられてしまう事の怖さ、それは、ラストで主人公のモノローグによって語られる通り、「裁判は真実を明らかにする場所ではない」「裁判は被告人が有罪であるか無罪であるかを、集められた証拠でとりあえず判断する場所に過ぎない」という理解が無いと、この映画は酷く観えてしまう。だからこそ、多少説明口調ではあるものの、これを知っておいてほしいんだと、きちんと作中で語らせている点は素晴らしいと思った。