監督は「ディア・ハンター」でアカデミー作品賞・監督賞の栄光を手にした後、次作「天国の門」で歴史的大赤字を記録するという、僅か2年間で天国と地獄を体験したマイケル・チミノ。
監督との共同脚本は翌年「プラトーン」でオスカーを受賞したオリバー・ストーン。因みに「プラトーン」は、自らのベトナム戦争での地獄のような体験を元に作られた映画だ。以上のことを頭に入れてこの映画を観るといろいろなものが見えてくる。
プロットはニューヨークのチャイナタウンを牛耳ろうとするチャイニーズマフィアの新興勢力とベトナム帰りの暴力刑事の死闘を描くバイオレンスアクション。場所がNYということも非常に重要だ。
マフィアの縄張りは、当然チャイナタウン。本家マフィアの根城は、リトル・イタリー。キャッスル・ストリートを挟んで、本来分離していたエリアに新興勢力のチャイニーズが進出すれば当然、そこには抗争が起きる。
ミッキー・ローク演じるポーランド系のタフな刑事スタンリーとジョン・ローン演じる若き中国系マフィアのジョーイ。2人が命懸けで全面対決する様を、大迫力のガンバイオレンス、中国文化のエキゾチックなムードで味付けし、白熱のクライマックスまで高いテンションで駆け抜ける。
興行的に成功とまではいかないが、ロークもローンも本作で人気スターに仲間入りし、日本でも人気を二分するほど話題となった。
個人的な感想として映画を観た直後は、そのけれん味のない演出とわかりやすい対立構造の切れ味にマイケル・チミノ監督復活の印象を受けた。
しかし、翌年オリバー・ストーン監督の「プラトーン」を観て、この映画に対する見方がガラリと変わった。
監督のマイケル・チミノも脚本のオリバー・ストーンもベトナム戦争に対する複雑な思いをこの映画の中に反映している。私にはそう見えたのだ。そしてその権化としてミッキー・ローク演じるスタンリーを登場させた。
彼にとってベトナムは不毛な戦争へのトラウマであり、ベトナム人=アジア人に対して得体の知れない畏れを感じていたのではないか?
この映画はチャイニーズマフィアの抗争とNY市警の戦いを描いているが、スタンリーにとってはベトナム戦争の報復戦なのだ。その証拠に彼はジョーイとの対決に出る時、米軍の野戦服を敢えて身に纏うのだ。
彼にとってはニューヨーク市警への勤務さえもベトナム戦争延長戦で、チャイニーズマフィアとの戦いは、ベトナム戦争の続きそのものだった。
翻ってそれはチミノもストーンもベトナム戦争は、まだ終わっていないと言っているように見えたのだ。そしてその決戦の地をベトナムの湿地帯ではなく、自分のホームであるニューヨークに持ち込んだと考えるのは偏見だろうか?