売春防止法が施行されて数年後の物語。
靖国神社の近く、九段下の花街で芸者をしている小えんは、芸はないが違反である枕営業で堂々と生きている。悪気もなく、あっけらかんと明るく男を手玉にとる。そんな友子が最後に商売女から足を洗おうとする…。
芸者、ホステス、愛人と絵に描いたような女性を演じる若尾文子は、ワガママに逞しく生きているのに、全くイヤらしくも、嫌悪感も感じない。艶っぽいのに純粋ささえ感じる、若尾文子のすごさ。着物姿がひたすら美しいのです。
👇以下、ネタバレ含みます⚠️
ただの芸者の話に留まらず、戦争や天皇を色濃く匂わせる演出が際立つ。
靖国神社で会話する身分の違う2人、バックに映る大きな菊の御紋。その構図の強烈さ。不穏な劇伴。そのシーンで見せる屈託なく話す友子と爽やかな青年とのやりとりが妙に不気味。
爽やかな青年が、まるで社会の不条理の象徴に見えてしまった。
劇中でたびたび靖国神社から聞こえる太鼓の音も意味ありげ。主題の裏に潜む川島雄三監督の反権力の表現が見事です。
ともすれば陳腐になりがちな芸者の話なのに、どのシーンもカメラアングルへのこだわりが感じられて芸術性が高まっていると思いました。
関わった男の娘と遭遇するシーンが2度ある。芸者の身では手に入らないであろう血のつながりというもの。そこに友子の不幸が見え隠れする。さりげなく見せる友子の悲哀の表情。
ラストは突き放す終わり方だった。そんなところから撮るのか〜って構図がカッコいい。
花の命は短い。友子の2度目の人生は幸せになれるのだろうか…。