猫脳髄

4匹の蝿の猫脳髄のレビュー・感想・評価

4匹の蝿(1971年製作の映画)
3.7
ダリオ・アルジェントによる初期正調ジャッロの佳作。いわゆる「動物3部作」の最終作で、鳥、猫を経て今回は「蠅」である。前作「わたしは目撃者」(1970)で強調されたハウダニットの殺人シーンはむしろマイルドになった一方で、サイコ・スリラーの側面に重きが置かれ、総体的にWhoーWhy要素が前景化している。アルジェント式ジャッロの最高峰「サスペリア PART2」(1975)に至る助走として、バランスを図っている時期だろう。

ストーカーと思い込んだ男を誤って殺害してしまったミュージシャンのもとに、写真とともに脅迫状が届く。妻のミムジー・ファーマーに事情を打ち明けるが、脅迫は次第に過激さを増していく。友人の勧めで私立探偵を雇い捜査を進めるが、そこには思わぬ真相が待ち受けていた、という筋書き。

本作のキモはパッケージでもアイコンとなっているミムジー・ファーマーに尽きる。ボーイッシュなプラチナ・ブロンドに酷薄な顔つき、可憐さもありながらどこか神経質というアンビバレントな特性がジャッロ、ホラー向きである。ラストシーンで瑕疵も含めてすべて持って行ってしまうところも合わせて強烈な印象を残す。

さらに、アルジェント作品の特徴である一見無意味なシーンが数多く挿入される方法も健在である。作品をいくつか見てきて、この「ムダ」こそ作品の広がりや面白みにつながる真骨頂と思ってよい。アルジェントの神(魔?)は細部にこそ宿っているのである。

それにしても、アルジェントにおける「ガラスと死」の関係性、ジャッロ作品に現れるゲイ・コミュニティの描写、猫への悪意、人形のモティーフの頻出と作品群に散りばめられた数多くの謎で論文が書けそうなくらいである。まだまだ未見の作品も多く、楽しみが続くのが嬉しいところ。

※2023.9にアルジェント自伝の邦訳がフィルムアート社から出版されるとのこと!
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