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椿三十郎のボブおじさんのレビュー・感想・評価

椿三十郎(1962年製作の映画)
4.4
黒澤映画の中で最も笑いの多い作品ではないだろうか?ご存じの通り「用心棒」の続編とも言うべき作品だが、「用心棒」がアクション・エンタメだとすると、こちらはさしずめアクション・コメディと言いたくなる😊

三船敏郎は、前作に引き続き滅法強い凄腕の浪人、もうすぐ四十の〝三十郎〟を演じているのだが、ひょんなことから一緒に行動することになるのが〝十二人の怒れる男〟ならぬ〝九人の頼れぬ若侍〟なのだ😅ちなみに9人の中には若大将(加山雄三)と青大将(田中邦衛)もいる。

この9人の若侍が、藩の窮地を救おうとしているが、まとまりもなく、何をやっても危なっかしい。偶然居合わせた〝三十郎〟が見るに見かねて助太刀をする。

原作が山本周五郎ということもあり、三十郎の人間性が前作以上にクローズアップされており、捕らえられた城代家老を救い出そうと先走る〝血気盛んな9人と百戦錬磨の三十郎〟との対比が面白い😊

序盤で隠れ家に踏み込んできた相手の手先を三十郎が瞬く間に追い返した後、床下に隠れていた9人が、一人また一人とモグラのように顔を出すところなんか、音楽も含めてドリフのコントを見ているようだ🤣

また、入江たか子の演じる城代家老の妻や、小林桂樹演じる〝捕らえられた敵の侍〟など、まるで〝ゆるキャラ〟の様な登場人物が、シリアスな場面の中に笑いを提供し続ける。この緊張と緩和のバランスが絶妙だ。

もちろん三十郎は、いつもの通り滅法強いのだが、この家老の妻には人間的に敵わない。若侍達には遠慮なく説教くらわす三十郎もこの人の前ではタジタジだ😅

こうしたユーモラスな雰囲気の中、三船のスピード感あふれる殺陣が冴え渡る。三十郎の宿敵として登場するのは、前作に引き続き仲代達矢。

〝眼光鋭く冷徹で狡猾〟な武士の佇まいは、いかにも腕の立つキレ者の雰囲気で、終始笑いに包まれたこの映画の中で、一人だけ違う温度を感じさせる。

全体のトーンが丸みを帯びて温かさがあるだけに、ラストの対決の鋭利で無慈悲な一瞬が、途轍もない緊張感を作り出している。


〈余談ですが〉
◆最後の一騎討ちは、数ある黒澤映画の中でも屈指の名シーンとして知られている、〝見る方が耐えられなくなるほどの間〟の後の一瞬の決着。アメリカの西部劇にガンマンの一騎打ちがあるように、日本の時代劇には侍の一騎打ちがあるのだと世界にアピールするような名場面だ😊

◆この映画は、モノクロ映画ながら色彩を感じさせる場面も多い。特に名前の由来にもなっている椿の色の話は有名だ。

屋敷には紅白の椿が咲き誇っているが、実は赤い椿は白い椿を黒く着色している。白黒のスクリーンで赤い色を最も感じさせるのは赤ではなく黒だということを黒澤明は知っていた。

モノクロの画面の中に、赤い椿が咲いていた。