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銀座の若大将のodyssのレビュー・感想・評価

銀座の若大将(1962年製作の映画)
3.5
【貧乏にさようなら】

BS録画にて。
加山雄三主演の若大将シリーズ第2作目。

麻布の老舗牛鍋屋の息子である若大将(加山雄三)が、父の友人(上原謙)が経営する銀座のレストランで喧嘩をしてしまい、物品を破損した罰にその店で働くことに。他方、そのレストランの隣の洋装店に勤務する若い娘・澄子(星由里子)との間に恋愛感情が芽生えるのだが・・・

大学生の若大将が、最初は軽音楽部でギターを弾いていたのが、ボクシング部にスカウトされ、次にはレストランで働き、さらにレストランの出張で万座にスキーに出かけ・・・と、とにかく忙しいこと、忙しいこと。体が三つくらいないと持たない感じだけれど、それをこなしてしまうところが映画ならでは。進行はスピーディだし、次から次へと色々なエピソードが出てくるので飽きるヒマがない。

お約束だが、若大将は若い女性にモテモテで、ヒロインの澄子以外にも、レストラン経営者の令嬢や大学新聞部の女学生、その他から言い寄られ、ヒロインはしばしばふくれっ面。しかしこれまたお約束として、若大将が本当に好きなのは澄子だけなのに、誤解されてしまい・・・という展開になる。

この映画には貧乏は出てこない。若大将は麻布の老舗牛鍋屋の息子だし、わけあって働くことになる場所も銀座のレストランだし、とにかく場所は高級なのだ。スキーに行くシーンにしても、当時の日本ではまだスキーは大衆化されておらず、或る程度裕福な階級でないと行けなかったはずである。

また、敵役の青大将(田中邦衛)も銀座で服をしつらえ、自分の車も持っているお坊ちゃんである。ヒーローも、アンチヒーローも、お金持ちなのである。

ヒロインの澄子だけは例外かも知れない。青大将からデートを申し込まれて、釣り合う服がないからと言って断り、オレがこの店の品を買ってやると言われても、そんなことをしたら女主人から冷遇されると言ってまた断るなど、家庭環境がはっきりしない。この時代だから、銀座の洋装店で働いているといっても恐らく誰かの紹介であり、貧民の娘ではないと思うが、とにかく彼女だけがいわば例外的にお嬢様ではないらしい。多分高卒で働きに出ている(事実上の花嫁学校である女子大や短大には行かずに)こともそれを裏打ちしている。

しかし、彼女はお嬢様ではなくとも貧しさという日本的なリアリズムとも無縁である。要するに彼女の役どころは若い美貌の娘でヒーローが夢中になるほどに魅力的ということであって、そこでは例えば親が金持ちだとか有名人だとかいう背景はかえって邪魔になるのである。ヒーローはそういう余計なものが付着していない、純粋に女としての魅力を持つだけのヒロインに惚れる、のでなくてはならないのだから。

この映画が作られた1962年の日本では、大学(短大含む)への進学率は約20%、大学が少数のお坊ちゃんやエリートの行く場所ではなくなりつつあった時代だ。そうした時代を背景に、貧乏くささは排除して、勉学に打ち込むわけでもなく、ギターやスキーなど好きなことに時間を割いて楽しく生きる大学生たちの姿を描いたこのシリーズは、日本映画史の上で一つの時代を作ったものと言えるだろう。
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