ほおづき

ナイロビの蜂のほおづきのレビュー・感想・評価

ナイロビの蜂(2005年製作の映画)
5.0
この物語は”究極の愛の形”を描いた恋愛物語であると同時に、医療のあり方へ疑問を投げかけた映画だと思う。
そして「コロナ」蔓延の今こそ
見直されてほしい作品。
 

ガーデニングが趣味の穏やかな性格の主人公が、アフリカの英国大使館赴任中に妻を亡くしてしまう。人道支援活動などを行っていた彼女の不可解な死の真相を探るうちに、ワクチンの利権をめぐる大手製薬会社や国がらみの巨大な陰謀に巻き込まれていくというおはなし。
  
医学の進歩によって、人々はより快適で安全な生活を送れるようになり、インフルエンザやエイズみたいな人類を脅かしてきた病気の致死率も減ってきている。
でももしそれが知らない国の知らない人たちの犠牲の上にあったものだとしたら・・・   
先進国で暮らす人間の健康のために、何も知らずに実験台にされた人たちがいたのだとしたら・・・
 
  
この作品で描かれるのは、大手製薬会社がアフリカの何も知らされてない人達に、臨床試験のため副作用があるかもしれない新薬を投与してきたという事実。なぜならそれは、医療設備も教育機関もなく病気が蔓延しやすい環境で生きているスラムの貧困層が、製薬会社にとって都合の良い治験場になっていたから。  

この映画の原作は、ファイザーが20年以上前にナイジェリアで臨床実験を行ったという事実を基にしたとも言われている。今回のコロナに関しても、アフリカでワクチン治験が開始されたというニュースがあった。それに対してWHOがストップをかけたという話もあるが。


先進国の人たちが何の気兼ねもなく受けることができる安全で最先端な現在の医療は、そんな名前も知らない国の社会的弱者の人たちを踏みにじって作り出してきたものであるということ。そして、それは日本という安全で衛生的な国で暮らす以上他人事では済まされないこと。

たしかに現代の生活はそういうものを土台にして成り立っているので、それら全部を否定することはできない。それでもこのような事実を知らないでいるのは何か間違っている気がする。
いろんなところで知らないうちに洗脳されているんだと気づくことができるなら、知っておくということも重要だと思うから。

原題の「CONSTANT GARDENER」っていうのは”変化のない庭師”という意味で、庭を良い状態にすることしか考えていない平和脳な主人公のことを皮肉っている。それと同時に、医療を受けることができる快適な暮らしを送る人たち全員のことを指しているのだと思う。


両親が薬剤師っていうのも影響しているかもしれないし、多感な時期に観たせいなのかもしれないけどすごく好きな作品。
5000人くらいのMarkしかなくて知名度もあんまりあるともいえないし、地味で暗くて重い内容で、あまりハッピーエンドとは言えないラストのせいで人気があるとも言えないけど・・・
認知度の低い社会問題を、多くの人に知らせることが映画の目的のひとつでもあると思うので、こういう作品が多くの人の目にとまればいいなと思う。