あんじょーら

ナイロビの蜂のあんじょーらのレビュー・感想・評価

ナイロビの蜂(2005年製作の映画)
2.7
ジャスティンは外交官としてアフリカに降り立っています。妻のテッサはこれからアフリカの奥地へ向かうのですが、彼女が去った次の日に、同僚のサンディがジャスティンに、テッサの死を告げてきます・・・呆然とするジャスティンはテッサとの過去を思い出し・・・というのが冒頭です。



見終わった後に原作がスパイ小説の大家であるジョン・ル・カレであることを知って深く納得です。とても丁寧なストーリィで、そのミステリの見せ方、キャラクターの掘り下げ方、そしてクライムサスペンスの要素を取り入れ、ハードボイルドでない男にハードボイルドをさせる、という構図が素晴らしいと感じました。



アフリカ、という地の魅せる自然のみならず、人間という生き物の、あるいは文化の、色彩豊な世界の、暗部までもを晒すショッキングな内容を含んでいて、ネタバレはなしで書きますが、素晴らしい映画でした。特に、主役を演じる2人の役者さん、ジャスティン役のレイフ・ファインズと、テッサ役のレイチェル・ワイズが良かったです。どちらも甲乙付けがたい迫真の演技をオーバーアクションを用いずに演じておられるところにも好感を持ちました。



ジャスティンというキャラクターの、園芸好きな物静かで争いを好まない人物がいかにして立ち上がるのか?という部分に説得力を持たせる空き家を訪れるシーンが見事で、そのシーンがあったからこそ、これまでテッサが打ち明けたくても打ち明けられなかった、という事実を裏づけすると共に、このハードボイルドな、ミステリアスな、ストーリィを自然に見せる要素になっていて好印象を持ちました。こんな風にキャラクターの肉付けに、背景に説得力を持たせている事が、演出やストーリィにまで良い効果を生んでいるのは監督、脚本、原作の素晴らしい仕事だと思います。



また、テッサというキャラクターが秀逸でして、決して信念を曲げない活動家、しかしジャスティンとの出会いの場面で示されるような協調性のなさもあり、集中することで視野が狭くなってしまうものの、パワフルでエネルギッシュな活動家であり、ジャスティンと暮らすことになっても変わらず活動し続けるのが面白かったです。だからこそ、謎を残す形にはなってしまうのですが、この辺のキャラクターとストーリィの関係が、ここでも補完しあっていて説得力があり、良かったと思います。



また、舞台をアフリカとイギリスという対照的な都市を描いているので、またソコに暮らす人間の自然な姿を捉えるカメラも非常に素晴らしく、色彩豊であるだけでなく、生活者のリアルを、主要登場人物ではないところにちりばめてているのも余計に主人公2人を際立たせる効果を生んでいたと思います。そして個人的に気に入ったアングルがアフリカの地表を歩くジャスティンの目線で足元を写し、進行方向を下に向けたシーンは印象的でこれからの場面を案じさせ、良かったです。



大きな陰謀と言いますか、薬剤会社と国家、そして利権と権力争いが渦巻くアフリカの一側面を描いた作品、骨太な作品です。また恐らく(どの程度までかは不明ですけれど)リアルなアフリカの現状を描いた作品でもあります。


個人的には結末も(果たしてこれが救いなのか?という部分はありますが)良かったと思います。



パートナーシップに興味のある方、ジョン・ル・カレの作品に興味ある方にオススメ致します。



ついで、といってはなんですが、同じジョン・ル・カレ原作「裏切りのサーカス」劇場で見逃してしまいました・・・かなり良い噂を聴いていたので残念。