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ブロンドの殺人者のnowstickのレビュー・感想・評価

ブロンドの殺人者(1943年製作の映画)
3.6
チャンドラー小説、初の映画化作品とのことで鑑賞。原作も既読。
おそらく、1941年に「マルタの鷹」が公開されたことで、ハードボイルド小説の映画化ブームが起き、それに乗じて制作された作品。
ストーリー展開において本作は、同年公開でチャンドラーも脚本を担当した「深夜の告白」に似た非線形の語り口が見られるが、本作は「深夜の告白」の3ヶ月後の公開であり、似せたにしては早すぎる為、偶然の一致かもしれない。
ハードボイルド小説は一人称の視点によって語られる事も多い為、映画においては回想とナレーションでそれを再現するという手法もアリかもしれないが、その分ハードボイルド特有の行き当たりばったり感が阻害されてしまっている気もする為、一長一短なんだろう。本作も作中において主人公が危機的状況に陥る描写がある以上、「こんな中盤で主人公が死ぬわけが無い」と観客全員が分かっているとは言え、あえて回想にして主人公が無事であることをネタバラシしてから物語を始める必要もないだろう。

他にも原作との相違点で言うと、登場人物が取捨選択されていて、話がかなりスッキリしていて見やすかった。本作の2年後に公開された同じくチャンドラー原作の「三つ数えろ!」とかだと、「恐喝等の裏稼業を行う白人中年男性」という似たパーソナリティの人物が3人も出てきて、観客を混乱させるだけだったが、本作の場合は、原作では2人いた医者が1人に統一されていたり、ジャーナリストの女性の役どころを他の登場人物と血縁関係のある役に変えて、話を進めやすくしていたりした。
船好きの自分としては、終盤のカジノ船のくだりが丸ごとカットされていたのは残念だったが、確かに本筋とはあまり関係が無い展開ではあったため、仕方がないだろう。

ハードボイルドのゴチャついた展開をボイスオーバーや、ストーリーの取捨選択によって分かりやすくした映画ではあったが、その分ハードボイルド特有の良さが減って、普通の映画になってしまっていた。
ハードボイルド的なストーリー展開特有の面白さを楽しみたいなら「三つ数えろ!」や、黒澤明の「用心棒」や「椿三十郎」、007シリーズとかを見た方が良いし、純粋に完成度の高いフィルムノワールを見たいなら「カサブランカ」とかを見た方が良いし、非線形の語り口を面白がりたいのなら「深夜の告白」とかを見た方が良いのだろう。

なんとも中途半端な映画という印象を受けてしまったが、特段悪い点もなく、それなりに楽しめたので、この時代のハードボイルド作品としては仕方がない気もする。
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