水無月右京

人生、ここにあり!の水無月右京のレビュー・感想・評価

人生、ここにあり!(2008年製作の映画)
4.5
本作の舞台は、治療は患者の自由意志のもとで行われるべきという信念のもと、バザリオ法によって世界初の試み"精神科病院の撤廃"が進められていた1980年代のイタリアミラノで、実話に基づいて作られた作品です。軽めなテンポでストーリーが進んでいくため、見ていてまったく退屈しませんでした。

見終わっての感想。本当に素晴らしい作品でした。力づけられ、涙なしに見ることができません。本作のテーマを一言で言うと"人生、やればできる!"というものですが、その内容・感じされられる要素は多岐に渡るものでした。管理者としてのマインドの持ち方・チームの率い方という見方もできれば、前向きに努力することの尊さ、偏見を持たないニュートラルな姿勢の大切さ、諦めずに問いかけ続けること(愚直さ)の重要性・・・などに加えて、精神医療現場の"薬の過剰投与問題"や"障害者の性"についても言及された作品です。

市場原理に逆らおうとする左翼に未来はなく、作業効率をあげて社会貢献の向上に資する自助努力こそが尊いものという信念を持つ主人公。労働組合の精神(労使関係を支配層・被支配層と捉え、所得の分配を雇用主に求めるスタンス)とは相容れない、いうなれば異端児的存在です。そんな彼は組合から左遷されます。新たな職場は、精神病院から追い出された精神病患者たちの協同組合で、彼らは"切手を貼る"業務を黙々とこなしています。主人公の新たな業務は彼らの監督官…というとこから本作はスタートします。

現場を観察してみたところ、全員の動きが緩慢です。そうなる原因について医師兼責任者に尋ねたところ、精神安定剤を多目に投与するとそうなるとのこと。主人公は、精神病に関する知識をまったく持ち合わせておらず、彼らに対する偏見も持ってません。自己の信念に基づき、業務の生産性向上を図るべく組合員会議を開きます。最初のうちは彼らは中々意見を言ってこないのですが、彼らの意見ともいえないようなリアクションのひとつひとつに対して、"いいね!"、"もっと他に意見はないか?"と問いかけていくことで、徐々に心を開かせていきます。最終的には、組合員は市場参入して木工・寄木張りをメイン業務にすることを決定、それまで管理されることが当たり前だった彼らに"主体性"が芽生えます。そりゃそうだ。誰だってお荷物になりたいなんて思っちゃいない。

そんな彼らの初仕事。結果は散々なものでした。そこで彼は次の台詞で皆を鼓舞します。"元気を出して!行動を起こす場合失敗は付き物だ。大切なのは実際に行動を起こして過ちから学ぶことなんだ。"この台詞を告げた後、一人20万リラずつの報酬を配って、業務と対価の関係性を彼らに腹落ちさせます。(実はどこからも仕事を断られてしまい、主人公の自宅の補修を初仕事にして、彼の自腹で報酬を支払ったのですね)

この取り組みを知った責任者は、自立に向けた取り組みを無茶だと主張、主人公は彼と衝突します。そこで主人公は自己の信念を主張します。"たとえどんな能力であったとしても、それを活かさない手はないんじゃないですか?"どうです?この台詞。アツいですね。俺は心の中で涙しましたよ。誰しも自分の存在意義を見出したいもの。その気持ちを汲んだ素晴らしい台詞だとは思いませんか?

その後、磐石とはいえないものの自立に向けた第一歩を踏み出したメンバー全員は、薬の過剰投与の取りやめと普通の人としての幸せ、"自宅の所有"と"自由恋愛"に向けた一歩を歩み始めます。

リアルでは"パワータイプ"と揶揄されたりもするのですが、本作では純な恋愛模様が描かれており胸を打たれるものがあります。紆余曲折があり、"彼女"の心無い一言に傷つけられた悲劇が起こる一幕もあるのですが、登場人物の誰に対しても責める気はおきません。むしろ、彼は自我を自身の手におさめたもの・・・と解釈しました。ですが、この一件を受けて主人公は深く傷つきます。医師からの"仕方のない一件だった。この過ちに学んで我々は再出発すべきでは?"のコメントがあったにもかかわらず、失意の中で協同組合の監督官を自ら辞任してしまいます。

こうして主人公は次の仕事につくのですが、あるときそこにメンバー一同がやってきます。この行動は、彼ら自身の意思、組合会議を経ての総意によるものでした。彼らがやってきたことの意味を誰よりも深く理解している主人公は、その後彼らの元に戻って皆と一緒に汗を流すのです。

旧き良き協同組合180。彼らの取り組みと主人公の奮闘・決して諦めない姿勢に大いに力づけられました。理事長も最高でした。

"人生、ここにあり!やればできる!"

まだ見たことないよという方は、ぜひ一度ご覧になってみてください。とても素晴らしい作品でしたよ。