Omizu

情婦マノンのOmizuのレビュー・感想・評価

情婦マノン(1948年製作の映画)
4.8
【第10回ヴェネツィア映画祭 金獅子賞】
『恐怖の報酬』アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督作品。オペラやバレエなどでも有名なロマン主義小説『マノン・レスコー』の翻案作品。

主演二人がとにかく魅力的だし、クルーゾーの映像美に酔いしれる。画面に映る全てが芸術作品。今まであまりクルーゾーにはピンとこなかったけどこれは素晴らしい。傑作。

ファム・ファタルであるマノン・レスコーを演じたのはわずか数作で女優業を引退し児童文学作家に転身した才女セシル・オーブリー。そしてマノンに振り回されるロベールを演じたのはジャン・コクトー版『美女と野獣』や『パリの恋人』で知られるミシェル・オークレール。

セシル・オーブリーは生意気そうな顔にブロンド。所謂セクシー美女という感じではない。でも振り回されてしまうのも分かるという絶妙な俳優さん。シーンによってころころと印象が変わる。金に貪欲な悪い顔、と思いきや舌を出して可愛く笑ったり。そう思うととろんとした顔で甘えて見せたり。彼女の表情を見ているだけで楽しい。

対してミシェル・オークレールは甘い顔立ちの美男子。振り回される可哀想な男、と思いきやラストで狂気の独占欲をみせる。気弱な表情とどこかおかしい表情の両面を出せる俳優さんだ。

空き家で初めて二人が向き合い愛し合う。そこをシルエットで捉えた世にも美しいあのショットにやられた。延々と満員列車でマノンがロベールを探し続けるシークエンスでは当時のフランスの状況を端的に表していて実に上手い。

そして終盤ではユダヤ人たちに混じって二人は砂漠を彷徨うのだが、まるで再び聖書の世界に戻ってきたようなユダヤ人の苦しい放浪の旅が描かれる。砂漠というロケーションを生かした撮影が見事。全体的に光と影の使い方がすごく上手い。

フランスの戦場から都会パリへ、そして密航、どこかの砂漠へという道程を魅力的に描いている。スケール感があるし、ファム・ファタルものとしてのダークさにも溢れている。主演二人も素晴らしく、映像は全てが芸術的。これ以上求めるものがない傑作。
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