たく

女の座のたくのレビュー・感想・評価

女の座(1962年製作の映画)
3.8
女性の多い家系におけるそれぞれの家族の生態を映し出す成瀬巳喜男監督1962年作品。豪華キャストの大所帯が絡み合う群像劇を通してしたたかに生きる女たちが描かれて、何ていうことのない日常の話が活き活きと息づいてた。嫁ぎ先で未亡人になった役を演ずる高峰秀子の役柄が同監督の「乱れる」を思わせる。他人の家で肩身の狭い思いをしてる孤独な彼女が、幼くして別れた息子への複雑な思いを抱える杉村春子と密かに心を交わすあたりが絶妙。草笛光子の世間を冷めた目線で見てるようで中身は世間知らずな子どもみたいな役も上手かったし、星由里子が抜群に可愛くてオアシス的な存在だった。

亡き夫の実家の日用品店で暮らす芳子のもとに、病に倒れた義父を見舞いに親戚一同が集まってくる冒頭で、多くの登場人物それぞれのキャラクターをさりげなく紹介していく手際が良い。宿舎を営む長女の松代、ラーメン店の店主の次男の次郎、生け花教室を営む次女の梅子、九州から夫と共に上京してきた三女の路子、家事手伝いの四女の夏子、おてんば気質のある末っ子の雪子。彼らに囲まれつつ、血の繋がりのない未亡人の芳子が他に行くあてもなく、肩身の狭い感じでひっそり暮らしてる構図が対比的に描かれて、特に梅子が彼女を毛嫌いしてるところに女特有の嫌らしさが漂う。

未婚の娘たちの結婚話に芳子が絡んでくる展開で、あきの前夫の息子が突然現れるあたりから、それまで男に見向きもしなかった梅子の心が乱れていく様子がスリリング。やっぱり若い時にちゃんと恋をしておかないと、年取った時にこじらせちゃうってことだね。夫が職を失くしてたことを隠し、ちゃっかり実家に居座っちゃう路子が夫ともども厚かましいんだけど、これぞ生き抜くための知恵とも言える。終盤で芳子に思わぬ悲劇が訪れるも、夏子を除いて周囲の家族たちが何となく他人事の態度を示す世知辛さ。最後は年老いた老夫婦が孤独な芳子を優しく受け入れるような形で終わるのがしみじみした余韻を感じさせて、ちょっと小津安二郎「東京物語」の老夫婦と紀子の関係性を思わせた。笠智衆を起用してることもあり、娘の結婚話やBGMの雰囲気など小津っぽかったね。
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