半兵衛

湖の琴の半兵衛のレビュー・感想・評価

湖の琴(1966年製作の映画)
3.5
知人からトンデモ映画だと聞いて鑑賞したが、確かに見た目のイメージ通りの文芸映画らしい重厚さと品格がありながら随所随所で出てくるへんてこな演出などで中々のトンデモ映画と化していた。

主人公のさく(佐久間良子)が舞台となる余呉湖の部落に奉公に出て蚕から糸を作る作業をおぼえ、仕事で知り合った同郷の宇吉(中村賀津雄)と恋仲になっていくという前半の展開は今見るとゆったりとした語り口だが、丁寧に主人公やその周囲の人たちの暮らしや感情を描いていて流麗な飯村雅彦カメラマンによる美しい画面も相まって文芸作品らしい雰囲気に満ちていた。

ところが中盤、部落に訪れた三味線引きの名人(中村鴈治郎)がさくを見初めて自分の女中にしてしまう…というところからバランスがどんどん崩れていく。まず名人がさくと初めて顔を会わすシーンでは宇吉とさくのときはやっていなかったのになぜか二人の映る画面が美しく施されていて、「これって普通主人公が恋人と出会う場面で使うよな…」と戸惑ってしまう。そしてその不安は的中し、宇吉は所々で出てくるものの実質上の主人公が中村鴈治郎と佐久間良子になってしまう。

中村は惚れているさくに対して当初はあくまで女中兼弟子として接していたものの、さくに彼氏がいるという話を聞きまた周囲の人からも「付き合っているんでしょ?」とからかわれ煩悩がとうとう爆発するのだがそのパートが異様に長くて「これって中年男性の悶々話?」とまた戸惑う。欲求不満になった中村が着替える佐久間を鏡などで覗くショットがますます中年男の視線を感じさせ中村同様セクハラしているような気分になる。

そこから長い葛藤があってとうとうさくを抱くのだが、そこに中村による変な妄想シーンが突然入ってくる。またその場面がへんてこな演劇チックな場面になっていて、白塗りで変な女神に扮する佐久間の演技が可笑しくてシリアスなドラマを台無しにする結果に。好きでもない男に抱かれ慟哭する佐久間の演技は素晴らしいけどね。

その後の展開も唐突すぎて、それまで肝心の宇吉パートをおろそかにしていたこともあって悲しいというより「そんな急に…」という気分になって映画は終わる。実は原作ではさくが妊娠したというエピソードがあるのだが、それを省いてテンポよくしたからそうなったのかしら。ラストの場面が美しいので、文芸映画を見たという余韻は残るが。

前半の余呉湖のロケーションや蚕に従事する人たちの作業はすごい丁寧に描くのに、後半の京都シーンは少し雑になっているのにビックリ。特に宇吉とさくがお寺の前で出会う場面のあからさまな合成。

田中邦衛や樹木希林、千秋実、木暮実千代など芸達者な役者が脇にいるのに大した場面がないまま出番が終わっているのが勿体ない。
半兵衛

半兵衛