みおこし

地獄に堕ちた勇者どものみおこしのレビュー・感想・評価

地獄に堕ちた勇者ども(1969年製作の映画)
3.5
意識しないとひたすらハリウッド映画を観てしまうのが私の悪い癖なので(笑)今年こそ、ヨーロッパ映画をもっとお勉強!ということで、イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティのドイツ三部作の一本目を鑑賞。

1933年2月、プロイセン貴族で製鉄王のエッセンベック一族の当主ヨアヒムは、政権を発足させたばかりのヒトラー率いるナチスとの協調を企んでいた。これを機に、反ナチのヘルベルト、突撃隊幹部のコンスタンティン、製鉄会社の重役のフリードリヒとその恋人のゾフィー、彼女の息子であるマルティンなどそれぞれの思惑がぶつかり合い、エッセンベック家の覇権を巡る骨肉の争いが始まるのだった...。

重い、重すぎる...!週末に気合を入れて観ることをオススメします(笑)。
血が繋がっている「家族」であっても、こんなに容易く憎み合うような関係になり得るんだな...と悲しくなりました。冒頭10分くらいから既に裏切りは始まっており、ドロドロの人間模様が繰り広げられます。ほんのわずかばかりの「愛」の場面も垣間見えましたが、それも自分の権力のためだったり、はたまた近親相姦だったりと歪んだものばかり。時はナチスドイツの台頭の前夜、やはり狂った時代には狂った人間模様も生まれやすいのだなと痛感...。「長いナイフの夜」事件は実話ですが、映像化されるとより凄惨さが伝わって観ていられなかったです。

こんな悲劇的なお話なのに、ヴィスコンティ監督の手腕により、ドロドロの愛憎劇がどこか甘美で崇高なものに見えるのがすごい。『ハムレット』や『マクベス』などのシェイクスピア悲劇へのオマージュも感じられる一代叙事詩となっています。
ダーク・ボガードとイングリッド・チューリンの2人が織りなす退廃的な愛も良かったけど、本作で一番際立っていたのが当時25歳のヘルムート・バーガー!
ヴィスコンティの秘蔵っ子としても有名ですが、目を見張るほどの美男子。幼女への執拗な愛着があったりと異常な面がある脆い青年から、さまざまな悲劇を乗り越えて冷酷なナチ党員へと変貌を遂げる迫真の演技が圧巻でした。有名なマレーネ・ディートリッヒの某シーンの再現では女装姿も披露、なんて美しいんでしょう...!
ヴィスコンティ作品に美男は欠かせないんですね。

タイトル通りこの世の「地獄」とも取れるあの悲劇的なラストシーン。そもそもヴィスコンティ×ナチスという取り合わせ、名作にならないわけがない!
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