脳内麻薬が常にドピュドピュ分泌しまくっていそうな激ヤバ監督、ギャスパー・ノエ。約20年前に彼の名を轟かせるきっかけになったのがこちらの作品。
アレックス(モニカ・ベルッチ)という女性とその恋人マルキュス(ヴァンサン・カッセル)。そしてアレックスとは、昔恋仲だったピエール(アルベール・デュポンテル)。
3人の男女に起きた、ある一夜の"悲劇"をエンドロールの逆回しからスタートし、物語の結末から始まりへと時系列を辿っていく斬新な構成で描く。
逆回しの物語りなので、あらすじは割愛。
"時はすべてを破壊する"
エンドロールから始まるプロローグ。
原題は「ひっくり返せない」「不可逆」「取り返しがつかない」を意味するフランス語だが、いくつかの文字が反転している。
上下左右、天地無用、
縦横無尽に動くカメラ。
序盤(物語の終盤)は定まらないカメラワークが特徴的。10-15分程度の長回しを繋げ時系列としては遡っていく構成は、慣れるまでは何が起きているのか容易には理解し難い。しかし、徐々に何が起きたのかが明らかになり—— 。
以下、ネタバレを含むので鑑賞予定の方は閲覧注意。
凡そ9分にも渡るレイプシーンが壮絶…。
モニカ・ベルッチが男に力で捩じ伏せられる。まさに体当たりの演技で挑んでいる。
時よ、止まれ。
時よ、戻れと願えども、
時間は無情にも過ぎていくだけ。
劇中の台詞で「未来の事はもう全部決まっているんだって。予知夢がその証拠」とアレックスが語る。
「夢を見た。トンネルにいた。トンネルは赤いの」とも。
アレックスが通った地下道、彼女がレイプされた地下道の壁は赤だった。
彼女は自分の最悪な夜の予知夢を見ていたのか…!!という事実を後で知る衝撃。そして生理が遅れているという事を告げるアレックス。そうか…妊娠していたのか…。
過去で起きていた事を後で知り、心が音を立てて崩れていきそうだ。
「復讐する」
「いいケツしてる」
「君のアナルに挿れたい」
マルキュスがアレックスに対して終盤(物語の始まり)で囁いていたこれらの台詞も、序盤(物語の終わり)の伏線となっている。伏線の逆回収。
意味のない会話ではない。
未来の事は全部決まっているという事。
ギャスパー・ノエ、やはり天才か!!
物語を時系列順で再構成した『アレックス STRAIGHT CUT』が2020年に公開されているが、僕はこの物語をもう一度観る心臓を今は持ち合わせていない。