フランス語の原題は「不可逆、取り戻せない」という意味だそう。
ほんの小さなすれ違いからかけがえのない日常を失った男女三人。
まるで皮肉のようにその一日は結末から始まる。つまりシークエンスは逆転し、オープニングはエンドロールが逆回しされたものから始まり、いくつか文字も反転している。このねじれがものすごく気味が悪くて嫌な予感がした。この映画苦手かも、と。
その予感は見事的中。多分もう二度と観れない。
ぐわんぐわんに酔わされるカメラワークで映し出されるのは男性同士の変態行為…までは耐えられたけど、その後の暴力描写がとてつもなくリアル。これ耐えられる女性いるのかな…私は例の9分間は途中リタイアでした。
彼女の思わぬ告白に動揺して飲みすぎた彼も
元カノへの未練で頭がいっぱいだった彼も
帰り道をつい急ぎ危険な場所を通った彼女も
ほんの小さな人間らしいミスとすれ違い。誰にでも起こりうること。
それがこんな悲劇を生み、もう二度と元には戻れないなんて。
ラストシーンは逆転しているせいで、しあわせだったふたりの姿で終わる。
モニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセルの無修正のベッドシーンの美しさと幸福感も、この後の近い未来を知っているので余計に哀しくやるせなくなる。
映画としてみたら良い作品なのかもしれない。こんなに良くも悪くも震える作品滅多に出会えない。
ギャスパー・ノエ監督はひとときの幸せと永遠の苦しみを極限まで高めてみせてくるのがうまいなぁ。そのぶんしんどいけど。