TaiRa

悲しみは空の彼方にのTaiRaのレビュー・感想・評価

悲しみは空の彼方に(1959年製作の映画)
5.0
ダグラス・サークってあらゆる面で凄いですわ。映画監督は全員この映画好きなんじゃないかってくらい色んな映画を想起させる。

59年は公民権運動真っ盛りな時期だし、人種差別への関心も高かっただろうけど、ここまで真正面から、それも厳しくリアルに描いたのって中々ないんじゃないかな。34年に『模倣の人生』として映画化された小説の再映画化だけど、よりシリアスに踏み込んでるみたいで、その辺は時勢を鑑みてって事か。戦後という時代設定も活きてる。戦争未亡人の白人のシングルマザーと住む家もない黒人のシングルマザーの人種を超えた友情、関係性。これは女性同士が夫婦になる話でもある。関係性が夫と妻(50年代当時の)になってるし。女優に返り咲こうとするローラがスティーヴのプロポーズを断って、「私は成功したい、上を目指すの」と言いながら階段を下へ下へ降りていくのが何とも言えん味わい。仕事に人生を捧げて家庭を疎かにし、娘との関係性が上手く築けない親の問題。それと同時に描かれる、アニーと娘のサラ・ジェーンの問題はかなりシビア。ライトスキンの娘が黒人の娘である事を隠して「白人の娘」になろうと親を拒絶する。彼女がそうせざるを得ない差別の現実も生々しく描いていくから、誰も責められない。家出した娘を追って来た母が娘に別れを告げる場面は悲し過ぎる。鏡に映る自分に向かって「私は白人」と何度も唱える娘を後ろから眺める母の姿、それを捉えるカメラの的確さ。劇中で効果的に使われる鏡は、登場人物たちの現実と理想に引き裂かれた状態を表す。まさに「模倣の人生」だ。理想化された人生を模倣しようと、それが本人や家族の幸せになるとは限らない。それに気付いた頃には大切な物を失っている。物凄く残酷だが冷酷ではない。サークの眼差しがそうだから。
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