尿道流れ者

生きものの記録の尿道流れ者のレビュー・感想・評価

生きものの記録(1955年製作の映画)
4.0
家族に起きる一つの亀裂。それは原子爆弾や水爆の被害から逃れようとする父親が家族を連れてブラジルに移住しようとすることからはじまる。家族を放射能から守りたい一心でその決断をするが家族には受け入れられない。

身近にある恐怖に対してどう接するかというのが問題で、その身近な恐怖はこの映画では放射能なのだが、当時の人々にはもしかしたら月日がたって身近なものには感じていない人も多くなっていたのかもしれないが、今は再び身近な問題となっている。
そういった身近な問題に差し迫った恐怖を抱く人もいれば、恐怖を忘れて暮らす人々もいる。どちらが正しいわけでもないし、劣っているということもない。

坂口安吾は戦争論というエッセイで、戦争は人類にとって文明の発達など有益なものをもたらしてきたが、原子爆弾によってその有益さよりも損害の方が上回った。だから戦争はしてはいけない、戦争の限度を超えてしまったと言った。
限度は命の感覚や想像力、経験によって線引きされるもので、それによって全てがルールにおさまっている。だから、200kmだせる車も公道では60km以下で走る。限度があれば常識的で安全に事がすすむ。

限度を超えた戦争で父親は自制の効かない限度を超えた逃避をするようになる。戦後も戦争は人を壊し続けた。しかし、限度が無ければ、どんな事でも人を壊すくらい危険なものになる。