まりりんクイン

生きものの記録のまりりんクインのレビュー・感想・評価

生きものの記録(1955年製作の映画)
4.3

今、黒澤監督の作品を一本勧めてくれと言われたら、迷わず本作を推します。



水爆の影響を恐れた老人が、家族を連れての日本からブラジルへの移住を強行しようとします。
しかし、今の生活が惜しい家族はそれに大反対し裁判沙汰になります。
果たして老人の神経がおかしいのか、それとも目の前の危機に対処しようとしない家族がおかしいのか?


小学校の頃学校で原爆に関する授業の一環として鑑賞しました。 勿論その時はこの作品が描こうとしていた恐ろしさの本質は全くわからなかったのですが、それでも嫌に記憶に残っていました。

震災後、改めて本作を見直して、この作品の視点の鋭さに驚愕しました。

危険がすぐ側にあるにも関わらず、何も準備をしようとしない。見て見ぬ振りをすることへの危機感と恐怖。
しかし、それを描いている本作を観たからと言って、何か行動を起こそうとする観客は殆どいないでしょう。僕もそうです。
いや、起こしたくても起こせない。そんな勇気を持ち合わせている人なんてそう多くはありません。
本作は基本的に主人公である中島老人に感情移入させる作りですが、
観客の多くは本質的には取り巻きの家族側なのです。

そのストーリー的に共感出来る感情と、自分の中の本質との矛盾が、観る者を常に揺さぶり続け、心を乱してきます。


そして一生忘れさせません。
まりりんクイン

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