Panierz

ヴェルクマイスター・ハーモニーのPanierzのレビュー・感想・評価

4.5
ピタゴラスの音律からヴェルクマイスターの調律、現代ではバークリーメソッドにより和音は記号化され、ジョージ・ラッセルはそれに抗する宗教的なユートピアを生み出す。こうして創られてきた音楽のほとんどは抑圧からの解放を演出し、そこにハリウッド的なストーリーを内在させてきた。そのようにして感情に揺さぶりをかける音階を偽物だとする語りは、罪のない弱き者を蹂躙する植民地主義と共時性を持って映し出される。支配には正当性など微塵もなく、そこには実体のない恐怖に対する自己防衛欲動があるのみだと言わんばかりの長回しによって構成されるフィルム。その中で、人間が持つ果てしのない恐怖の中心にある空洞を、タル・ベーラは克明に描き出す。

創造には破壊があり、破壊には創造がある。サイトスペシフィックアートなど幻想であり全てが廃墟として透視される。そのようにして全編に渡って限りなく否定神学的に虚無を捉えるタル・ベーラの眼差しは超人のように峻峭で強固だ。
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