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警視庁物語 行方不明のotomisanのレビュー・感想・評価

警視庁物語 行方不明(1964年製作の映画)
3.9
 大の男が二人いっしょに行方不明になる。革製品の工場でイタリーの提携企業との顔合わせを目前にして。
 捜査一課シリーズも9年目、24作目でこれで最終回。テレビ放映でも2年にして町の景色も当初から少しは昔臭さも変わったようだが、事件の背景のそのまた背景ぐらいなりともイタリーの企業云々なんて事情が出てくるようになったのがなんだか感慨深い。なにしろ'64年はオリンピックの年、自由化にも迫られ、先進国にも数えられるようになった年だ。

 ところがそんな華やかな話題が物語に漏れ出ることはなく、むしろ背伸びする日本を象徴するように、男二人の行方不明事件をきっかけに、その片割れのひとり、立身出世のために名前と学歴を偽って就職し、上司を女性関係ネタで強請り、海外留学の便宜と役員の子女との婚姻まで後援するよう要求する上昇志向な男の素顔が明らかにされる。
 そして、その学歴詐称を聞きつけた行方不明のもう一人との確執の行方も不明なまま、この二人のどちらかの死亡事件の可能性が濃厚となるが、死んだのはどちらか。

 先進国一年目の日本らしい競争社会の歪みを自ら作って、自分も含めて死体が二つ。かの上司の愛人に恋してしまった男が出世のための結婚を諦めた時にはすでに遅く、殺人容疑者として、学歴詐称の過去も明らかにされてしまう。
 十数年前、朝鮮戦争と講和のあいだの頃、旧制大学を中退しなければならなかった男が当時の友人の名を借りて本当の自分を行方知れずにしたツケが回ってくる。豊かで明るい未来を手にするために罪を重ねた自分をかの「愛人」に詫びる書き留めの最後に男の本名が記されていた。過去の自分、犯罪を企図したあの日の自分を忘れることはなかったらしい。
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