ハル

緑の光線のハルのレビュー・感想・評価

緑の光線(1986年製作の映画)
5.0
23歳の若手女性カメラマンを起用し、主演のマリーリヴィエールも含めてわずか四人の若い女性スタッフとひと夏の避暑地を訪れて撮影しているこの作品。どこまでが台本に書かれているのか、即興なのか、分からない領域に踏み込んだものになっている。浮遊する空気感を見事にカメラに留めたこの作品は普遍的で捉えどころのない日常と、その日常の中にある一瞬で瞬きさえ許されない繊細な人間模様の生の空気の感覚が表現されている。ちょっとした一瞥や、些細な一言、相手を見つめる視線が他人のその後を決めてしまう瞬間がある。言葉にすると嘘になる感情、瞬く間に過ぎ去ってしまう日常の一コマ、カメラを回した途端に嘘っぽくなってしまう世界をエリックロメールは独自の手法で本物の世界を超えた作り物が本物に見えるある世界を創り出している。孤独で窮屈そうに見える生き方は、自由気ままに自らの意思に翻弄されながらも、頑なに、何か大切なものを抱きながら旅を続けている裏打ちでもある。彼女なりの努力はしているのだ。ひとつのことを長い間待ち続けると、ひとは見えなくなってしまうのだ。
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