蛸

キャット・ピープルの蛸のレビュー・感想・評価

キャット・ピープル(1942年製作の映画)
4.2
『私はゾンビと歩いた』のプロデューサーであるリュートンとターナー監督による作品。リュートンの作るホラー映画はどれも間接的な恐怖表現、簡単に言ってしまえば「雰囲気づくり」が非常に上手い。
かつて澁澤龍彦が、幻想文学には人工的なスタイル=文体が欠かすことが出来ないと言っていたのを覚えていますが、それは映画においても同じことだと僕は思います。幻想文学は意識的な文体によって雰囲気を、1つの世界を形作ります。この場合、映画における文体とは画面のあらゆる構成要素のことを指します。この映画は照明や小道具を使っての雰囲気作りが抜群に上手い。主人公の室内の光と影のバランスなんか見ていてウットリさせられます。何者かに追われている気配を感じたアリスが街灯も疎らな歩道を駆けていくシーンでは光と闇の中を交互に潜り抜けていく様子が観客をハラハラさせます(繰り返し消滅してはまた現れるアリス!)。プールの水面に反射した光が天井や壁に映っている場面なんてほとんど表現主義的です(実際、リュートンの元ではドイツから亡命してきたスタッフも働いていたそうです)。

嫉妬や欲情によって豹に変身してしまう女性の話と聞くと「なんて荒唐無稽な」と思うかもしれません。しかし人間は誰しも、内に自分ではコントロールすることの出来ない感情を抱えているものです。その意味でこれは現実を極端にデフォルメした作品であってもどこまでも現実の延長にあるお話なのです。性に対して嫌悪感を持っている女性のお話だとも言えますし。
動物園の檻の中にいる黒豹(=もう一人の自分)なんていうモチーフも精神分析的で良かったです。
低予算らしいですが全くチープなところは感じられませんでした。尺も短く非常に過不足なく纏まった秀作だと思います。
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