Yoshishun

ロスト・イン・ラ・マンチャのYoshishunのレビュー・感想・評価

3.5
“映画製作の過酷さ”

映画史上最も呪われた企画とされるドン・キホーテの映像化。かつてオーソン・ウェルズも企画したものの頓挫し、実現できぬまま当の本人が他界してしまう等、数多くの映画監督が恐れてきた企画である。
この呪われた企画に立ち向かったのがテリー・ギリアム監督だが、2020年の完成に漕ぎ着けるまでの紆余曲折がありすぎて、本編よりも映画のような事態になっていた。

構想10年を経て映画化が始動したにも関わらず、独創的かつ奇抜すぎて予算が足りずハリウッドでの出資を断念、撮影数日前なのにヒロイン役の出演契約が降りない、スタッフ間の連携不足、主演の病気による降板、ロケ地でのNATO軍事演習による撮影妨害、極めつけは気候変動による撮影スケジュールの遅延とロケ地の変更、機材の損傷といったところだろうか。

ありとあらゆるトラブルに直面しながらも、笑顔で悠々と監督を務めるテリー・ギリアムこそドン・キホーテのようだが、次第にその表情にも陰りが見え始める。ついには助監督にも見放され、制作陣はそれぞれ別の仕事へと駆り出されていく。執念の企画がいとも簡単に崩れ去っていく過程は、映画製作の過酷さや無慈悲さを決定づける。

ついに完成した本作を観てからだと、例の巨人のシーンや風車のシーンは頓挫した本来の映画化へのオマージュであり、テリー・ギリアムのせめてもの罪滅ぼしだったようにも思える。映画製作は映画よりも奇なりといったところか。
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