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綿の国星のzhenli13のレビュー・感想・評価

綿の国星(1984年製作の映画)
3.0
こんな作品が突如としてアマプラに登場していた。なんてこった。こんな機会が無ければ一生観ることもなかっただろう。映画版の存在は知っていたが、サンリオ映画だと思ってたら虫プロダクションだった。監督の辻伸一は知らなかった。虫プロの作画監督で『まんが日本昔ばなし』なども手がけていて某宗教法人のアニメ映画なんかも監督したそう。当時(日本では)飛ぶ鳥落とす勢いだったリチャード・クレイダーマンのテーマ曲だよ。

原作『綿の国星』は花とゆめコミックスを後追いで読み今でも持っているので、単行本をめくりながら観てみた。本作映画版はこの1巻の1話目を骨格として、2〜3巻のエピソードを少しずつ挟んでいる。
正直『綿の国星』は原作もそこまで好きではなく、しかし大島弓子の作品には甚大な影響を受けた。リアルタイムで読んだ『つるばらつるばら』『ダイエット』あたりの単行本は、もう影響どころではなく私の一部を作ったといえる。以前映画化された『毎日が夏休み』もリアタイで読んだ。同じく映画化された『四月怪談』も好きな作品。両方とも映画は観てないけど。
熱心な読者でもなくごく一部しか知らないが、大島弓子作品はハードボイルドだと思っている。この『綿の国星』1,2巻に同時収載されている『夏の終わりのト短調』『たそがれは逢魔の時間』は大傑作。前者は優秀な仮面を被った機能不全家族の内実が出来の悪い従妹によって暴かれる物語。後者は少女売春の物語で、いま映画観ながら『たそがれは逢魔の時間』読み返したら涙が出てきた。大島弓子作品では上位に好き。

『綿の国星』から逸脱した。本作連載時は小学生だった。当時は存在だけ知っていたもののリアルタイムで読んでおらず。擬人化された猫(この手の表現の嚆矢ともいえる)の可愛さでパッと見ファンタジックなのだけど、主人公「チビ猫」が猫の世界と人間との暮らしのなかで生と死を知っていく物語で、断続連載で未完とのこと。
この作品で恐ろしかったのが単行本の最終話「ねのくに」で、病気で瀕死の猫(猫エイズとされている。当時HIV感染への差別偏見が流布しており、本作でもいまみると差別的な表現がある)がみる夢の中には人形や模型が並び、夢にうなされる猫が人形でモグラ叩きをしたり模型を倒したりして遊ぶと、現実世界の人間たちが喧嘩や殴り合いを始め団地がドミノ倒しになり大騒動になるという話で、チビ猫はそこに関わりつつも何の影響も無かったかのように、物語自体も何の収拾もなく終わる。
ちなみにこの単行本収載の短編『サマタイム』もディストピア終末物語である。

結局映画の感想でも何でもないが、原作を知らずに映画だけ観たらだいぶ退屈するかなと思った。脚本で大島弓子本人も関わっていて、原作の台詞がだいぶ整理されてわかりやすくはなっていた。猫目線なのか、人物の頭の見切れ(おでこが切れるくらいなのでギリギリではある)が多く感じた。
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