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グリードのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

グリード(1924年製作の映画)
4.5
サイレントの名作と言われているエリッヒ・フォン・シュトロハイムが監督した悲劇。今まで知っている中で最も壮絶なファム・ファタールでした。あり得そうなリアルな描写と展開。愛らしい少女トリナに魅せられた歯科医師マックが堕ちていく強欲(グリード)な世界。途中から増してくるホラー感と狂気がたまらない。シニカルなラストは昔話の教訓みたいでした。

100年前のサイレントとは思えない生々しい心理描写、細やかな演出、役者の表情等々。声が聞こえてきそうです。実際にトーキーのようにセリフを話していたそうで、サイレントによくある身振り手振りの大きな表現とは違い、リアルでした。

実際は8時間あった作品を勝手に編集し2時間にされたもの。これだけリアルな描写で8時間あったら、さぞかし濃厚な人間ドラマだっただろうと思います。2時間でも充分に濃い。

ただ、唯一わからなかったところが、親友の獣医師マーカスが主人公マックにせがまれたからと言って、そうそう簡単に自分の彼女トリナを手放すものだろうか。宝くじより、これが不幸の始まりにみえました。

いくつものメタファーがあり、トリナとマックが会うときはいつも雨。黒猫、小鳥がうまく活用されています。

鉱山での重労働から始まり、役に立たない金貨で終わる。グリードとは強欲なこと。拝金主義への痛烈な風刺であることは間違いないのですが(資本主義の否定ではないと思います)、この作品すべてに漂う<執着心>の根源はシュトロハイムの執拗な完璧主義から来ているものと感じます。

また、トリナは運命を狂わすファム・ファタールでしたが、なんとなくですが、優しく素朴なマックが助けようとした小鳥(カナリア)の生まれ変わりに思えてなりません。「鶴の恩返し」的な。あるいは、鉱山のカナリアの人類への復讐的な。マックが素朴なまま、優しかったら、トリナはただの節約家の良妻のままだったかも…なんて、壮絶なラストの後に思いました。

原作者は、実際の事件にヒントを得て執筆。原作から映画に至るまで、徹底したリアリズムが貫かれていました。

シュトロハイム監督、お初だと思っていたら、俳優としては何度かお会いしていました。クセのある風貌と役回り、記憶に残っていました。
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